複数の人の集団がある一定目的を達成するために行動する際は、全体の調整役が必要です。各人がバラバラに動くより、指示者・調整者により各人の動きを制御した方が全体の活動力が高まります。同様に経営者は、社内の経営資源(人、モノ、カネ、情報)の制御によって会社全体で効率的に事業活動を行う指示者・調整者といえます。しかし、事業の立ち上げ期には指示者・調整者の必要性を感じても、事業が定常業務となったときはどうでしょう。いったん、組織が最適化されていれば後はそれを繰り返し続けるだけで、指示者・調整者は不要となります。しかし事業や組織が最適化されているとは限りません。実際に事業が進んでから分かることがあります。経営者は常に事業や組織に目を配り、現状が理想的な状態なのか問わなければなりません。問題点はないか探し続け、見つかれば速やかに問題解決を図る、これが経営者の役割です。
経営でもう一つ重要なことは、計画を変え続けていくことです。「計画通りに実施するために継続的に改善していくこと」が経営の本質であると述べたことに一見、相反するかもしれません。経営は、会社組織の内部を常時監視し改善し続けなければいけないと同時に、会社を取り巻く外部環境も常時監視し、適応し続けなければいけないのです。外部環境とは、経済の状況、政治・法制度、人々の意識、技術革新、競合他社などです。これらは、常に変化し続けています。近年は、変化が急になっています。外部環境が変化しなければ経営者は会社内のことに集中できますが、変化し続けるのならば、経営者は、会社内部にも外部にも常に目配りが必要です。
外部環境は変化し続けていて止まることはありません。政治では、規制や法改正がビジネスチャンスを発生させたり、逆にマイナス要素として働いたりします。経済では、景気の波や原材料価格動向が企業の損益に直結します。社会のトレンドでは、人口構成や家族構成の変化、交通網の整備、環境やエネルギー問題、技術革新などが製品需要を変化させます。消費者ニーズは固定的ではなく、ブームになったり飽きられたり、気まぐれです。競合他社が魅力的な新製品を開発したり既存品の価格を下げたりすれば、すぐに自社製品に影響します。事業や組織をしっかりと監視管理し最適化していたとしても、外部環境の変化でもはや最適な状態ではなくなっている可能性があります。生産している商品がもはや消費者ニーズにマッチしなくなっている可能性もあります。事業や組織は、外部環境に対しても、その変化に対応し最適な状態を保たなければならないのです。
このため経営者はマスコミ報道や顧客の声、統計情報を常に入手分析し将来の予測を見直した上で、あわせて社内の状況を把握し、対応策を決め実践し続けなければなりません。様々な情報から将来の状況を予測し、会社が対応しなければならない課題を抽出する必要があります。優秀なスタッフがそばにいれば分析は可能ですが、経営の変革の最終判断は経営者にかかってきます。
事業を常に監視し最適化し続けることが経営者に求められます。それには事業をモニターする手段が必要です。販売実績、生産実績のレポート、コスト計算書、現場の意見等常に見て耳を傾けることが大切です。 決まっていることを毎日続けるのであれば、状況を監視したり今後を計画する必要はありません。経営管理が必要なのは、計画で決まっていることが実際はできないか、実際にできたらできたで、変化する外部環境の中でそれが妥当なことであるかが、常に問われているからです。経営管理は、Plan-Do-see-Actionで考えることができます。製造業であれ、販売業であれ、サービス業であれ、モノを作る際は、売る際は、提供する際は、あらかじめ計画を立てることが重要です。どのくらいの量をどのように作るか、売るか、提供するかを決めれば、それに必要な資源(人、モノ、カネ)の量と組み合わせが分かり、効率よく実施することができます。これがPlanです。そしてDo、実行します。
ここからが更に重要です。次はSeeです。計画して実行したならば、計画通りに実施されたかどうか検査が必要です。生産・販売量をはじめ、その方法が計画通りであれば良いのですが、計画とは異なる結果となった場合、原因分析が必要です。計画に無理がなかったか、生産・販売手法に問題点がなかったか、需要予測が不正確だったか等です。原因を分析して、今後は同様なことが発生しないように対処する。これが、Actionです。Actionによって生産・販売方法を改善します。その結果を受けてPlanを見直し、再度、Do-See-Action、そして再度Planを見直しDo-See-Actionを繰り返します。繰り返しの過程で、計画を達成する可能性が高まります。Plan-Do-See-Actionのサイクルを繰り返すことで、変化する経営環境に対応し事業の効率化を図ることができます。このPlan-Do-see-Actionを絶え間なく続けていくこと、これが経営管理の基本です。まず目標を立て、目標を達成する道筋としての計画を立て、実行し、検査し、改善し、再度計画を立て実行し・・・・、これを繰り返し最終的には当初の経営目標を達成する、これを行うのが経営です。
経営者の仕事は、整理すると①日々外部環境分析を怠らず、②内部環境分析によって外部環境の変化によって生じる経営課題を認識し、事業改善を実行し外部環境の変化に対応し続けることです。小さなことでも改善を繰り返せば、大きな改善となります。
どんな事業を行うか、手がかりとなるのは、5W1H です。いつ ―― 経営環境は時々刻々と変化します。タイミングによっては、追い風となったり、逆風となったりします。消費者の嗜好トレンド、競合他社の参入と退出、法律・制度の改正や規制緩和がタイミングとなりえます。どこで ―― 事業場所の選定です。生産拠点であればもっとも低コストで生産できる、又は消費地への物流コストをもっとも安く提供できる場所の選定です。販売拠点であれば、ターゲットとする消費者に最も効果的に商品を提供できる場所となります。何を ―― 提供する商品やサービスの範囲です。範囲としては、商品の種類や価格帯などです。複数の事業を行う場合は、相乗効果や経済性で範囲が決まります。誰に ―― ターゲットとする顧客です。どのように ―― 事業の方法です。方法選択によって、生産コストの低減や効果的な商品アピールが決まります。
製造業であればハードの製造と提供、サービス業であればサービスの提供と考えますが、顧客への価値の提供という視点に立つと、ハード、ソフト、サービスの3つの柱で考えるとよいです。①ハード ―― 製造業であれば、まさに商品そのものです。性能・機能、デザインなどで顧客へアピールします。サービス業であっても、飲食業・小売り業であれば、店舗、内装、商品陳列などで、良い雰囲気での食事、買い物の価値を提供できます。②ソフト ―― 商品であれば、使いやすさやサプライ用品、拡張性など、デジタル商品であればまさにソフトウエアやコンテンツが該当します。飲食業であれば、提供メニュー、小売り業であれば商品の魅力を引き出す演出です。③サービス ―― 商品購入に関わる情報提供機能、接客、アフターサービス、デジタル商品では情報の入手・更新などです。どれか一つではなく、ハード、ソフト、サービスの3つからどんな価値を顧客に提供できるかを考えることで、総合的な顧客価値の創造が図られます。
事業で生み出されるものは何でしょうか。製造業であれば顧客にモノを提供することと考えがちです。顧客は確かにモノを受け取りますが、受け取ることが目的ではなく、そのモノを使うことから得られる便益を目的として商品を購入します。商品から受け取る便益とは、商品の機能・性能だけでなくデザイン、アフターサービス、サプライ用品、周辺機器や、接客、情報なども含まれます。企業はモノやサービスを通じて価値を顧客に提供します。企業活動によって価値がどのように付加されていくか、製造・販売の流れで見てみます。
原材料から加工・組立を通じて工業製品を生み出し顧客に提供する製造業について考えます。その過程で、顧客への価値が積み上がっていきます。これを付加価値の連鎖(バリューチェーン)といいます。製品が顧客に届く段階で積み上がった価値を式で表すと、価値 = 製品の機能・性能+デザイン性+価格+広告宣伝イメージ+小売チャネル+製品保証。消費者が工業製品に求めるのは、基本的に製品で獲得できる機能・性能です。ただし、製品の魅力はそれだけで規定されるものではありません。購買は所有することですから、デザイン性が所有の魅力を生み出します。価格も購買決定の要因です。商品を消費者が知らなければ、商品の魅力が伝わりません。広告宣伝イメージで価値を高められます。購買したいと思っても、容易に購入できなければ、購入が断念される可能性があります。住宅地やオフィス街に近接した販売店を多く持っていることが購買されやすくなります。消費者は、商品についての全ての情報を持っているわけではありません。製品の信頼性、メーカの信頼性で買っている場合もあります。製品保証やアフターサービスも購入時の判断ポイントとなり、顧客にとって価値となります。
原材料+付加価値=最終製品であり、最終製品+販売機能+アフターサービス=事業価値となります。最終製品の価値にだけ注目するのではなく、製品から消費者が受けとる持続的価値(消費者目線による価値)を考えます。
提供サービス内容+販売機能+アフターサービス=顧客価値となります。提供サービスの価値にだけ注目するのではなく、サービスから消費者が受けとる持続的価値(消費者目線による価値)を考えます。
商品力だけでなく、商品の陳列、売り場設計、建物内装・外装も顧客へのアピールポイントとなります。小売店であれば、商品+陳列+店舗+接客+アフターサービス=価値、または、機能・性能+知識+価格+信頼性=顧客価値、となります。これらがすべて合わさって付加価値が積み上げられ、付加価値のトータルで消費者の購買決定や満足度が決まるのです。
近年、デジタル家電の登場と発展で、消費者の考える価値についても変化してきています。 デジタル家電では、付加価値の連鎖は、従来の価値連鎖「製品の機能・性能+デザイン性+価格+広告宣伝イメージ+小売チャネル+製品保証」に加えて更に、初期のデジタル家電は、「 ハードウェア本体+周辺機器+ソフトウェア+(互換性)+(普及率)」、デジタル家電の発展により、「ハードウェア本体+周辺機器+ソフトウェア+アプリケーション+コンテンツ+(互換性)+(普及率)+(拡張性)」へと変化してきています。また、デジタル家電以外においては、「アフターサービス+提供価値」が重要となってきています。
「会社とは何か」を突き詰めていくと、会社は何のためにあるのかという問いにたどり着きます。会社は様々な事業を行います。モノを製造したり販売したり、顧客にサービスを提供したり。しかし、製造や販売、サービスの提供は、それ自体が目的化してしまうと、現在の事業をただ機械的に繰り返すだけになってしまいます。そこで、何のために日々事業をやっているのかという問いに立ち返って考えることが大切です。持続的な会社の活動によって最終的に達成したいこと、これが明確化されれば、日々の事業の意義が分かりますし、目標設定によって事業の計画も、将来の方向性も見えてきます。事業活動を通じて究極的に達成したいこと、これが経営理念です。経営理念によって、事業の動機づけや目標設定、事業計画が定めやすくなります。経営理念の共有によって、社員の労働への動機づけに繋がります。
経営理念によって、どんな事業を行うか、達成目標が設定できます。経営理念は究極的な達成目標となりますが、その道筋に沿った中間段階としての当面の目標が、経営目標です。経営目標を社員で共有することで、社員の目標が定まります。経営管理の基本は、この経営理念と経営目標を定め、社員に浸透させ、組織の一体化を図ることです。理想の姿や目標があることで、実際の経営状況との差異の認識、経営改善を図ることができます。これがまさに経営です。何事も事業活動を行うには、目標が必要です。目標設定は、事業の目的を明確化できるだけでなく、計画の具体化、動機づけの維持、目標が達成されたかどうかの評価を可能とします。少し高いところに設定された目標によって、それを達成しようと会社の成長が図られます。目標があれば計画を立てやすくなります。なぜなら目標達成の道筋を示すのが計画だからです。目標があれば実績値との比較で、なぜ目標が達成できなかったかの分析が可能で、より現実的な目標の再設定、経営課題の抽出、経営改善活動につなげられます。
経営目標がその時々の企業状態や外部環境で変化しうるのに対して、会社設立時から一貫して維持される目標が経営理念です。中期目標が3~5年、短期目標が1年ごとに設定されるのに対して、経営理念は長期的な会社の存在理由、存在価値を示すものです。一般的には、経営目標よりも抽象化した理想を追求するような表現が選ばれます。経営目標のように直接会社の事業活動に関わるものではありませんが、経営理念は経営目標の目標といえます。経営理念を定め社員に浸透させれば、会社の存在意義や究極の目標を共有できます。社内においては、会社の一体感の醸成、モチベーションの向上につながり、社外においては、社会的存在意義のアピール、会社の認知、会社イメージの向上につながります。
経営の目的は経営理念で表現されていることでありますが、これは究極的なものであって、具体化されたものが別に存在します。経営理論では、企業価値最大化、別の言い方をすれば株価最大化が経営目的として位置づけられています。目的を一つとすれば、経営者は一つのことだけを考えておけばよく、経営判断はし易くなります。しかし経営者はもっと多くのことを考える必要があります。例えば株価最大化を目的とした場合、収益のうち配当に回す分を増やすことで投資家の魅力をひきつけ株価を上昇させることができます。一歩、配当を増やせば投資に回る分が減り、将来の競争力に影響します。投資家の魅力をひきつけるには、短期的な業績に関心が行ってしまいがちですが、会社を持続的なものと捉えるならば、長期的な視点で目標設定することが大切です。
企業であれば、初めから時限的な組織として設立されたものを除いて。ずっと事業を続けることは暗黙の前提になっています。少なくとも経営理念が達成されるまではそうです。事業活動を止めることは、多くの場合、経営が行き詰まり倒産するときです。企業は、顧客、取引先、従業員、株主など多くの関係者がいます。倒産は多くの関係者に影響します。事業活動をほぼ永続的に続けられること、そのための活動こそ、経営です。継続企業であるための条件は、①適切な利潤の確保、②企業の成長、③企業市民(社会的責任、社会貢献)の意識、④企業家精神を失わないこと の4つです。利潤を確保し続けなければやがて倒産します。景気動向など会社を取り巻く環境が少々変化しても利益を上げ続ける仕組みが重要となります。利益を確保し続ける方法の一つは、会社は常に成長させることです。結果的に成長できなくても、そのための取り組みが利益の継続的な確保に繋がります。企業市民であることの意識は、事業継続の動機づけとなります。企業家精神は、創業間もないころは旺盛であっても、成熟企業となると失われがちです。企業家精神を持ち、創造性の追求、革新への挑戦、リスクへの挑戦を続けることは、企業成長の原動力となります。
管理とは、思いつきで行動を起こすことではありません。十分な量の客観的観測結果に基づき、合理的に問題解決を図ることが求められます。経営実態を正確に把握するには、日々のデータを正確に取ることです。売上高、商品別販売数量、労働時間、仕入れ、在庫等です。次は、観察です。作業の動作を観察し、分析し作業改善につなげます。事務作業の業務フローを可視化し、効率的な作業フローに改善します。なり行きで管理するのではなく、科学的管理が重要です。経営計画の策定が科学的管理の前提となります。
経営目標が定まったら、それを達成するための道筋、それが経営計画です。何事も計画を立てなければ、活動を円滑に進めることはできません。計画がなければ管理もできません。計画は、短期計画(1年程度)と中長期計画(3~5年)の両方を立てましょう。中長期計画があり、それを達成するための中間目標として短期計画があります。将来は何が起こるかわかりません。外部環境は変化し続けます。今現在においても、楽観的な見通しで計画するのではなく、ノーマルケース、ワーストケースの両方を考えましょう。想定できるケースについて、それを前提に計画されたものをコンテンジェンシープランといいます。なお、一度立てた計画でも、外部環境が大きく変われば、計画の絶えざる見直しによって、環境変化に適応したものにします。短期計画は、年間目標として、業績の数値目標(売上、利益等)も加えましょう。
経営課題は、目標・計画と現状とのギャップです。課題抽出は、 経営レベル、管理レベル、業務レベルそれぞれで行います。経営課題の抽出といえば決算書の分析が一般的ですが、書類上の情報だけでは不足です。生きた情報も必要です。経営レベルでは、経営者インタビューから情報を得ます。中間管理職や一般社員からもインタビューできればなお良いです。情報は、書類、インタビュー、そして観察です。観察は、こまめに現場に出かけ、注意深く観察することです。資料やインタビュー、観察では課題が見えてこない場合があります。仮説、いわば仮の課題を立てて、それが事実に当てはまるか検証する方が容易なときもあります。単純明晰な仮説から出発し、それが観察可能、反駁可能な仮説であること、簡単な方法で検証可能であることが条件です。
どんな事業を行っていても、独占事業者でなければ競合企業が存在します。自社しか存在しなければ、自社のことだけ考えていればよいですが、競合企業の存在は、競合企業の行動とその影響も考慮しなければなりません。市場、競合他社、顧客を全て考慮し、行動を決定するのは戦略といいます。戦略の策定は、経営にとって中核的な部分を占めます。戦略とは、競合他社との競争を考慮しながら、変化する外部環境に的確・迅速に対応し、新事業機会を獲得することです。戦略はそのまま経営目標となりえます。
会社は何を事業とするか、これも重要な検討課題です。事業領域をドメインといいます。現在の事業領域について、たえず評価を行い見直しを進めていくことが必要ですが、それだけでなく、将来の方向性も計画しなければなりません。事業の見直しによる整理縮小と新規事業への拡大で選択と集中を進め、持続的な収益の確保を図っていくものです。選択と集中の方法には、主に3つがあります。まずは、現在のドメインの位置づけの確認です。2次元座標にマッピングします。縦軸にバリューチェーンとして付加価値の列を書きます。上から下への方向に、原材料から始まって、素材・デバイス・部品、組立加工による製品化、ソフトウエア作成、販売、サービス等が位置づけられます。上流工程、下流工程、川上、川下とも呼ばれます。自社がその中で縦位置でどこに位置づけられるかポジショニングします。横軸には自社が扱う製品群を並べます。中核事業を左に置き、それに近い製品を順に並べます。左から右へ中核事業から周辺事業へと並べていきます。その右側には、自社が現在扱っていないが、技術的に自社技術が活用できそうな製品群を並べます。すると事業領域を、2次元上の位置づけと大きさ(製品群のちらばり)を認識することができます。位置と大きさは、自社の経営資源、自社を取り巻く環境から考えて適切か検討し戦略策定に繋げます。事業領域の見直しは、選択と集中による絞り込み、多角化による領域拡大の2つがあります。
ドメイン(事業領域)は、たえず見直しを行うことが大切です。外部経営環境と内部経営資源は変化します。自社の経営資源に見合った、外部環境に適応する事業領域も変化し続けます。選択と集中は、資源投入効率の高い分野への経営資源の集中投下で競争力の向上を図ること、多角化は事業の分散によるシナジー効果への期待、範囲の経済の追求、事業リスクの低減がメリットです。戦略の策定には、現状事業領域の分析が第一歩です。自社の事業をすべて書き出し、それぞれについて売上規模、競争力、利益率、将来性、ライフサイクルの視点で評価し、選択または新規事業の検討を行います。
あれもこれも狙いたい、競合他社の中で企業が成長するには、あるゆる努力が必要となります。しかし、時間と経営資源には限りがあるため、中途半端なものに終わってしまうことになりかねません。自社の特徴、将来の方向性をよく分析し、どれかの戦略に集中することが成功の秘訣です。限られた経営資源と競合他社の存在を前提として事業を継続・発展させる上で、一つの方法に絞って集中させることは、現実的に必要とされる手法です。業績として、売上、利益、シェア等、何を重視するか。会社の方向性として、会社の成長性、安定性でどちらを重視するか。さらには、提供商品としてブランド力のある高級品、安価な商品による量販、どちらを重視するか等です。これにより、商品ラインアップも、価格設定も、広告宣伝も、店舗設計も決まってきます。様々な市場アプローチの方法がある中で、どれを重視するかが戦略を策定することを意味します。企業が使える経営資源(ヒト、モノ、カネ、情報)は有限であり、戦略実行の時間も有限であるため、どの戦略を選択するか、どの戦略を実行しないかの選択こそ、経営者に求められることです。
企業が目標を立てるとき、理想的には、売上、利益の両方を高めたいと考えるのは普通です。しかし、複数の企業が市場競争をしていることを前提としれば、売上と利益のどちらかを犠牲にしないと、もう一方を伸ばすことができない場合があります。例えば、売上を伸ばすために価格を低価格にし、その分利益が犠牲になることや、逆に利益を追求し、高収益が見込める事業だけに特化し事業規模を抑えた場合などです。売上・シェア拡大戦略は、単に売上を伸ばすことが最終目的ではありません。売上を伸ばすことで、消費者の認知度が上がりブランド力がつけば、時間差をもって高収益が可能となります。また、売上が上がると「規模の経済効果」で生産コストが下がり、収益増大が見込めます。
一方利益拡大戦略は、事業規模の拡大を最優先にするのではなく、安定的な高収益を狙うものです。企業の存続拡大には、利益を安定的に上げ続けることが条件です。利益拡大戦略では事業範囲の見直し、価格の維持、生産コストの削減の継続的努力が必要となります。利益最大化を優先事項として、事業領域、売上、シェア、価格等を判断していくものです。
新製品開発戦略では、既存市場に新製品を投入し、顧客の買い替え、新規顧客の開拓を狙います。単純に考えて新製品を投入すれば売上アップになりそうですが、多大な開発コストがかかること、既存製品が売れなくなること、そして新製品が売れるかどうか不確実なこと、慎重に検討しなければ失敗します。新市場開発戦略は、新製品というよりも、既存製品または自社所有技術で製品化が可能なものを従来とは異なる市場に投入し、顧客層を広げる試みです。男性向けだった製品を改良して女性向け製品として投入する、若年層向け製品を中高年層向け製品にアレンジして投入するようなことです。新市場開発戦略は、既存の自社技術を活用する方法で、取り組みやすい戦略といえます。既存の製品や技術を分析し、新しいアイデアを少し付加することで、新たな顧客を獲得できます。
これらは、競合他社や潜在他社を意識して一定のシェアの確保を目指す、守りの戦略です。自社のアイデアと努力でビジネスが成功し売上や利益が確保されたとしても、他社がそれを模倣し参入する可能性があります。そうなれば、売上や利益が維持できるとは限りません。他社が容易には真似をできないビジネスとすること、これが参入障壁形成戦略です。 他社が設定できないような価格設定も参入障壁の一つです。商品の品質が同様ならば、安い方を消費者は選択しますが、参入を考えている企業は、既存企業より安い価格を設定できる自信がなければ参入を躊躇します。この場合、既存企業は、参入企業がより安い価格での参入を試みても、その後の価格競争(値下げ競争)で勝つ自信があれば、参入を考えている企業がそれを予想すれば参入を躊躇します。競合企業が市場にすでに存在していたとしても、同類の商品で競争している市場では、価格でリーダシップをとる戦略、つまり低い価格設定は十分に競争力があります。しかし、その分、社内でのコスト削減努力が必要で、利益の低下となることは避けられません。一方、多様な商品で競争している市場では、単純価格競争とはならず、低価格一定品質の商品と高価格高品質の商品で棲み分けが可能です。
同類の商品で競争している市場では、単純価格競争となりがちです。他社と差別化を図ることは、単純価格競争による利益低下を防ぐ方法となります。なお、差別化は、対象顧客層を絞ることになり、ターゲット顧客へのアピール力は増しますが、顧客層そのものは小さくなります。売り上げよりも利益を狙った戦略です。汎用化された商品は、シェアをとれば大きく売り上げを伸ばす可能性がありますが、競争により売上が振るわず利益もでない可能性もあります。差別化戦略は、売上の可能性よりも安定性と利益を重視する戦略といえます。
差別化をさらに進め、顧客ターゲットを更に絞り込み、少数顧客に強くアピールする戦略です。ニッチ市場は隙間の市場を意味し、他社が手掛けていない未開拓の市場、通常はごく小さな市場をターゲットとするものです。市場を細分化する利点は、少数顧客に強くアピールできること、高い価値を置く顧客を対象としているので高い価格が設定しやすいこと、細分化された市場では競争相手がいなくなること等です。一方、問題点として市場規模自体が小さいので、売上が望めないことです。一般に大企業は大量生産の設備を持っており、規模の経済を活かした事業に優位性があります。よって、ニッチ戦略や市場細分化は、大企業は手掛けず、中小企業が選択する戦略です。なお、中小企業同士での競争はありますから、細分化と市場規模(潜在顧客数)について十分な検討が必要です。
水平的多角化は、価値連鎖の位置づけを変えないで、製品群を拡大し、事業を拡大していく戦略です。製品群の拡大は、売上、利益を増加させるとは限りません。製品群の拡大がメリットとなるのは、範囲の経済が活かせる場合です。自社がすでに持つ技術を容易に他の製品に転用できる場合、自社の顧客に既存製品以外でも訴求力のある製品が自社既存技術で生み出し可能な場合、新しい製品が存在することで、既存製品とのシナジー効果が生まれ、既存製品にも好影響が期待できる場合です。逆に、このようなことが十分期待できない場合は、単に製品群を増やしても限りある経営資源のエネルギーが分散してしまうだけで、むしろ選択と集中によって、経営資源を集中させた方がよい場合は多いといえます。
垂直的多角化は、価値連鎖の中で自社の範囲を川上や川下に広げていく戦略です。例えば、組立加工が自社の既存領域だったとすると、部品の製造にまで広げ、部品から最終製品まで一貫して生産すること、または、製造だけでなく、販売やアフターサービスまで手掛けること等です。垂直統合とも呼びます。垂直的多角化の利点は、価値連鎖の多くの部分を自社の中に取り込むことで、従来は発生した部品会社や販売会社との価格・品質交渉が不要となることです。素材・部品生産から製造、販売サービスまで一貫して請け負うという垂直統合は、自社の範囲を広げることで、広い範囲の中での全体最適化が図れます。ただし、これも、全体最適化によって、生産コスト、魅力的な製品開発等が十分期待できることが前提となります。自社で部品を製造するより他社から仕入れた方が、コスト的にも需要の変化への適応力においても勝ることがあります。販売はノウハウを持った専門業者に任せた方が、製造は他社への委託にし、製品企画開発に特化した方が利益が期待できる場合は多いです。
多角化とは異なり、選択と集中で、事業領域を絞り込んでいくのが、集中化戦略、縮小戦略、整理撤退戦略です。事業を削減することで、限りある経営資源を得意分野に集中するものです。事業領域が広がれば、その中の事業間で、自社の得意不得意、利益をもたらすもの、そうでない者等の事業間格差が出てきます。経営分析によって将来動向の予測によって、継続する事業、拡大する事業、整理縮小する事業に選り分け、事業領域を見直します。縮小、整理撤退というと会社の成長とは逆方向の動きと捉えがちですが、むしろ、今後の成長のための一過程と捉えることです。会社が成長すれば、ぜい肉もついてきます。ときどきシェイプアップして会社を筋肉質にしていくことは更なる成長に必要なことです。
経営を行うには、まず自らを知らなければなりません。自社の人材、物的資産、資金力などは、ヒト、モノ、カネと呼ばれ、経営資源の基本要素です。ヒトは、労働者数や固定資産の額など量に注目しがちですが、重要なのは質の方です。人材の持つ専門知識、スキル、営業ノウハウの程度で実効的マンパワーが異なってきます。社員のスキルはどの程度か常に把握するとともに、教育訓練でスキルアップを図っていかなければなりません。事業ごとに労働生産性(付加価値/労働者数)を計測してみるとよいでしょう。
モノ(固定資産)は取得金額ではなく、資産が会社の事業でどれくらい活用されているか、その資産が生み出す価値に注目します。最新設備の方が古い設備よりも生産力は高く、老朽化した設備では維持費がかかる割には生産能力がない場合があります。事業ごとに資本生産性(付加価値/固定資産額)を計測し、設備が持つ真の力を把握します。
カネについては、財務分析により、経営の健全性、効率性、収益性などを計算できます。財務指標は、過去との比較、他社との比較、経営指標との比較により相対評価できます。また、自己資本と負債、内部留保額や手元資金にも注目します。これらは企業が自由に使えるお金を規定するもので、新規事業の実施、設備投資など、経営戦略の実施や見直しに必要な資金となります。資金的余裕度は、資金の活用可能性に直結します。これらは、形(目で確認できる)ものですが、近年は、無形資産(技術力、情報力、営業力、知名度・評判、経営ノウハウなど)の重要性が高まってきています。無形資産は、文字通り視覚的に認識できないため、過小・過大評価したり、ヒト、モノ、カネと比べ、活用法が明確でないことがありますが、業績を決定づける重要な経営資源です。
経営資源は、主に社内の資源を対象としますが、社外資源についても把握する必要があります。提携先の企業が高い技術力、高い営業力をもっていたりすれば、それなりに活用できます。親会社、子会社についても同様です。経営資源が把握できたら、自社の方向性、経営戦略から考えて、最適な資源構成を考えます。ヒト、モノ、カネ等、経営資源は十分にあることに越したことはありませんが、通常限りがあります。資源を増やすにはそれに応じたコストがかかります。このため資源の絶対量を増やすのではなく、その最適配分で、ヒト、モノ、カネ等の総合力を向上させるのです。 自社の経営資源を把握したら、他社と比べ、自社の強みとなっているか弱みとなっているかを分析し、次のような表に整理します。
強み | 技術力、品質管理、製造ノウハウ |
弱み | 販売チャネル、新規顧客開拓力、資金 |
外部経営資源分析は、企業を取り巻く外部環境について分析・把握するものです。企業はヒト、モノ、カネ、情報などの経営資源を使い、企業外部から仕入れをし外部へ販売しています。経営資源も外部から調達します。経営資源は、労働市場、金利動向、資本財市場の動向に影響を受けますし、仕入れは原材料市場、販売は景気動向から影響を受けます。自社の市場に競合他社がいれば、他社の競合製品の価格設定や技術水準が自社の売り上げに影響します。これらは直接的な影響ですが、業界全体の動向、技術革新、行政の規制強化・緩和、人口統計的変化なども影響します。
重要なことは、現在起きている変化の正確な把握と、今後の変化の方向の正確な予測です。経営計画を策定し投資して製品を販売して資金を回収するころには、時間がたっています。その間、外部環境は変化します。内部経営資源については、ある程度自社でコントロールすることはできても、外部環境についてはコントロールは困難です。外部環境の将来の変化に適応していくしかありません。このため、正確な予測が必要となります。外部環境としてチェックすべき項目は、人口動態、マクロ経済指標(景気、企業業績、物価、金利、経済政策)、業界動向(業界他社動向、技術水準、規制)、消費者動向、世相・トレンド等です。外部環境を把握したら、それが自社にとって機会なのか脅威なのか、次の表のように整理します。
機会 | 脅威 |
海外市場の拡大、規制緩和 | 海外商品の流入、他社の参入 |
SWOT分析とは、自社の位置づけを、強み(Strongness)、弱み(Weakness)、機会(Opportunity)、脅威(Threat)の4つの視点で分析するものです。内部経営資源分析から、自社の強み(Strongness)と弱み(Weakness)を明確化して、強みとなる部分をさらに強化し、弱い部分には、弱点補強するための方策を考えます。他社との競争力を比較するのに、強みと弱みを抽出することで、相対的位置関係の把握が容易となります。なお、強みを更に強化するか、弱点の補強を最優先とするかは、それぞれの考え方によります。併せて外部環境分析として、機会(Opportunity)となる外部環境、脅威(Threat)となる外部環境も把握します。内部資源分析(自社の強み、弱み)と外部環境分析(機会、脅威)の結果を組み合わせることで、自社の位置づけを把握し、経営課題の抽出を行います。
機会 | 脅威 | |
強み | 機会をチャンスと捉え、強みを最大限活かす。 | 脅威を強みによって最小限に抑える。 |
弱み | 機会を活かせるよう弱みを克服する。 | 脅威に耐えられるよう弱みを克服する。 |
製造業であれば、事業を、購買-加工-出荷-販売-アフターサービスの時系列で捉えることができます。原材料を仕入れ最終商品に加工して消費者に販売し利益が出るということは、最終商品が原材料よりも消費者にとって高い価値(付加価値)を持つからです。この付加価値向上過程は、購買-加工-出荷-販売-アフターサービスの各工程で徐々に積み上げられてきたものです。製造業以外でも、小売であれば商品を仕入れ販売する過程で、サービス業であれば、ヒトやモノを調達しそれらの経営資源を使ってサービスを提供する過程で付加価値が生まれます。いづれも、販売した価値からモノやサービスの生産に使ったコストを引いたものが付加価値であり、会社の取り分となります。販売した価値と生産コストの差が大きいほど、会社の利益が大きくなります。販売、顧客に提供する価値に注目するのがバリュ-チェーンです。顧客に提供する価値が大きくなるほど、会社の売上・利益が高まります。
製造業を例にとりましょう。製造業では、まず部品・原料を調達します。それをそのまま転売したのでは、転売額は調達額とほとんど変わりません。しかし、会社で加工工程を経て製品になれば、販売額は調達額より大きくなります。原材料の価値より製品の価値が高いからです。製品の高機能化は、さらに価値を高めます。製品が同じでも製品の販売方法の工夫で、製品のアフターサービスで、製品の広告宣伝のブランドイメージで、製品に組み合わせる付帯物で、さらに価値を高めることができます。バリュ-チェインは、製品の価値の高め方を一つの側面だけでなく、企業活動すべてによって、価値の向上を積み重ねていく、まさにチェーンで繋ぐという考え方に基づいています。
ビジネスのモデル化で、自社と外部環境との関わりを外部から自社に働く5つの力として表現するものです。5つの力は、①競合相手との競争力、②売り手(供給元)との交渉力、③買い手(販売先)との交渉力、④潜在的参入の脅威(参入障壁の高さ)、⑤代替市場との競争力の5つです。自社と外部環境との間のこの5つの力の強弱で、外部環境に影響されない力を持つか、外部環境から影響され不利な立場となるか分かれます。5つの力関係を分析することで、自社の弱い部分を洗い出し、強化することが求められます。
競合他社が類似の製品を出しているのなら、どこが似ていてどこが違うのかは、ポジショニングマップを描くと分かりやすくなります。製品の持つ2つの特性を縦軸、横軸にとり、自社製品、他社製品を2つの製品特性から(x、y)座標にプロットします。製品のプロットされた位置が近ければ、それだけ競合の度合いも強いといえます。プロットされた位置が遠ければ競合度が低いので、他社製品からの影響は少ないと判断できます。
これは、市場環境の中で製品の位置づけを把握し、どの製品にビジネス資源配分を行うかを容易にするものです。市場成長度と市場シェアの2つの尺度に、製品を位置づけたものです。表で表せば次のようになります。この図で、自社製品の市場での競争力と将来性が分かり、今後どの製品分野に経営資源を配分していくべきかが読みとれます。
高競争力(高シェア) | 低競争力(低シェア) | |
高成長 | A商品 | B商品 |
低成長 | C商品 | D商品 |
戦略策定のための一つの手法です。売上や利益を伸ばそうと事業拡大を図る際に、製品と市場に注目して2次元マトリックスに表し、視覚的に整理したものです。事業の拡大には、大きく2つの視点で、製品の範囲の拡大と顧客の範囲の拡大を考えます。製品では、既存製品の販売強化を図るか、新製品を開発し投入するかの判断が、顧客では、顧客既存に更にアピールし売り上げにつなげるか、新規顧客を開拓し顧客数を増やし売上に繋げるかの判断があります。製品と顧客で既存製品、既存顧客か、新製品、新顧客かの判断があれば、その組み合わせは4通りとなります。この4パターンについて、それぞれの場合の取り得る戦略をマトリックス化したのが、アンゾフモデルです。4つの組み合わせで考えることにより、製品だけや顧客だけの視点で拡大戦略を考えるより、より最適化された戦略を考えるツールとなります。
既存市場・既存顧客 | 新市場・新顧客 | |
既存製品 | ||
新製品 |
自社分析には、経営上の数字(売上、利益、シェア、成長率等の業績数字)をグラフ化すると視覚的に理解できます。直観も働きやすくなります。2つのキーワードを抽出し、一方を横軸、もう一方を縦軸に座標上でグラフ化します。例えば、収益性を横軸に市場成長率を縦軸にとり、自社製品をマッピングすることなどです。このとき、ただデータをグラフ化するのではなく、比較データも合わせて書き加えて比較すると、分析が分かりやすくなります。比較によって、大きくなったとか小さくなったとかが直観的に理解できます。比較対象は、過去との比較、競合他社との比較、業界標準との比較などです。
外部資源を活用することで内部経営資源の不足を補うことができます。事業の一部を外部委託(アウトソーシング)する利点は、①事業の規模や内容に変動がある場合、変動に応じて外部委託の量や内容を繁華させることができる、②外部委託は会計上は変動費であり、予期せぬ事業縮小があった場合でも、事業規模に応じてコスト削減が可能、③新規事業を行う場合では、立ち上げ時のコスト(新規投資等)がかかるが、外部委託はスピード、コスト、技術力の点で有利であるなどです。一方、デメリットとしては、①外部委託先の都合で事業が影響を受ける、②自社内に経営資源(人材力、設備、技術力)が蓄積しない、③むしろ自社内で実施した方が低コストの場合もあるなどがあり、外部委託から自社事業(内製化)いする選択肢もあります。
様々な経営分析を通じて経営課題を抽出し、課題を解決するための戦略を策定します。戦略策定のプロセスは、整理すると以下のようになります。
PDCAサイクルでは、計画し、実行し、評価し、再度計画を見直します。この4工程を繰り返すことで、変化し続ける外部環境に適応し、内部経営資源の最適な活用が図られます。最初のステップである「計画」には、次のようなものがあります。 事業計画 ―― 定常的な事業活動の計画です。日常の事業に必要な経営資源や運転資金の推移を計画します。 投資の計画 ―― 経営戦略に基づく、投資を計画します。投資資金の調達計画、投資の効果、投資の回収方法、投資のリスク要因の分析と対処法の策定などです。 利益計画 ―― 定常業務、投資による利益の計画です。売り上げ予測、固定費、変動費等から利益の予測、又は、一定の利益を挙げるのに必要な売り上げ規模や事業規模を見積もります。 資金計画 ―― 運転資金、投資資金、回収資金について、資金調達、支出、資金回収の面で計画します。 新規事業計画 ―― 経営戦略に基づき、新規事業を計画します。 新製品開発計画 ―― 経営戦略に基づき、新製品開発を計画します。 既存事業改善計画 ―― 計画では、投資や新規事業、新製品開発など「新しいこと」に目が行きがちですが、既存事業を分析し、問題点・課題を抽出、改善を地道に図っていくことが大切です。改善すべき項目を抽出し、それぞれについて、一定の計画の中で、一気に、時には徐々に改善活動を行っていくための計画です。 生産計画、要員計画、販売計画 ―― 事業には経営資源が必要です。経営資源の最適な配置と投入には、一定期間を見通した計画が必要です。
計画し実行した後は、評価となります。事業の評価では、各事業の収益力、売上高、資金力を見て、各事業の企業貢献度を計ります。評価のポイントは、計画と実績との差異の把握と分析です。計画を下回った、ないしは計画したことができなかったのなら、その原因を探らなければなりません。原因を探求し、課題があれば課題の改善・解決を図ることが次のステップとなります。一方、計画の方が過大すぎた、不正確だった可能性もあります。計画が妥当なものであったかの検証を行い、妥当でなければ計画の見直しを行います。事業評価では、財務的な数字の成績に目が行きがちですが、事業の位置づけの再認識も評価の一つです。自社の商品の商品ポジションの再確認、自社の顧客層の再確認、流通チャネルの再確認などです。現状の事業の評価から将来の予測を再確認・修正することも評価の一つです。成長性(市場規模、競争力)や将来の成長要因の認識です。
事業にはリスクが伴います。リスクとしては、①経済環境の急変による売上急減、②事業上の事故、③天災、④外国の政治経済・安全に係る急変などがあります。リスクマネジメントは、リスクの発生を未然に防ぐ(予防マネジメント)、発生してしまったリスクに対して、その影響を最小化する(リスク対処マネジメント)ことです。考えられるリスク要因をリストアップし、その発生頻度、発生した場合の影響度、発生後の対処法をリスク分析表に整理します。
リスク要因 | 発生確率 | 発生時の影響度 | 発生の予防策 |
A | |||
B |
コンピュータシステムを企業に導入し業務を情報化すると、様々なメリットがあります。情報化対象は、会計処理、人事管理(組織、勤務、給与)、購買・仕入れ、販売管理(売上、利益)などです。情報化によって、従来人手で行っていた業務が自動化し、労働コストの削減や余裕の出た労働力を別の業務へ転換し労働投入の再配置が可能です。製造工程を自動化すれば、同様の効果が得られます。第一の効果はコスト削減です。また、大量のデータを正確に処理できるため、業務の拡大、顧客クレームの減少、再度の処理の低減で業務スピードも上がります。情報は電子的に保存されるので、業務データの保存やアクセスが容易です。蓄積された一次データの統計計算やグラフ化で、業績把握、経営戦略立案や財務諸表作成が自動化します。社外システムと連携すれば、仕入れや販売業務の効率化、スピードアップが図られます。このように情報化の効果は大きいといえますが、それは、個々の会社にあった適切な情報化を図った場合の結果です。そうでなければ、投資に見合った効果が得られるとは限りません。経営に役立つ、投資に見合った情報化には、必要なことがあります。
会社の業務は一般的に、仕入れ、製造、販売、会計、人事等で構成されます。それぞれの業務について、
などが考えられます。 情報化しやすいのは定型的な業務で、情報化をきっかけに定型業務の最適化を図ります。ポイントとなるのは、非定型的な業務をどこまで情報システムに取り込むかです。現状の業務を前提としてシステム化をするのではなく、業務モデルにより業務のあるべき姿を定めてからシステム化を行い、それに合わせて業務と組織の改革・改善を図ることです。
業務の現状分析を行います。チェックポイントは以下のとおりです。
情報化の効果には、定性効果と定量効果があります。定性効果としては、情報化そのものが競争優位の確立となっている場合です。毎日の売上や購買データ、財務データなどは、意思決定に役立ちます。データの収集や分析で、経営計画・経営予測精度が向上します。管理情報の収集で、管理統制能力が向上します。社内でのデータの共有とメール活用、アナウンスで組織内コミュニケーションが向上します。一方、定量効果としては、業務を機械化することで、処理時間を短縮し生産性が向上します。併せて、要員削減、コスト削減が図れます。
情報化には、それを推進する体制づくりが最初の一歩となります。ポイントは、経営トップの参画によるトップダウンと、業務改善による情報化のボトムアップの組み合わせです。立案体制として情報担当役員(CIO)を指名し、CIOをトップとしたプロジェクト体制で経営意思の反映、経営計画との整合性、計画の責任ある実行の中核部隊とします。情報化にはその前提となる業務の再定義・業務改善が必要です。そのためには、全社的な承認のもと、社内関係部門の協力と参加で進めます。
情報化を進めるには、それが企業の戦略、組織、文化に合致したものでなければ機能しません。情報化の手順を示します。事前調査を基に情報化計画を策定し、計画に基づいて着実に情報化を進めていきます。
情報化計画の構成例を示します。
情報化計画のポイントは以下のとおりです。
情報システムが正常に機能しているかは、システム監査によって確認します。監査項目は、正確性、有効性、生産性、柔軟性、安全性、信頼性、機密性です。
情報システムの導入は設備投資であり、その投資効果の検証が必要です。評価は、システムの修正・見直し・拡張、今後の情報化計画策定の材料となります。評価項目は、①経営戦略への貢献度、②組織との適合度、③経済性、④情報技術動向との適合性、⑤情報資源(情報、ハード、ソフト、人材)の活用度等です。評価には、定量的評価と定性的評価があります。定量的評価は、コスト削減額、販売増加額、人数削減量、サービス増大量、作業時間短縮量などです。定性的評価は、企業イメージの向上、サービスの向上、社員の士気の向上効果です。定性的評価は数値化が難しいため軽視されがちですが、重要な項目です。客観性が確保できる形で実施します。導入効果を計量できたならば、それが投資額に見合ったものであるか、費用対効果分析を行います。
企業の形態には、株式会社、有限会社、合資会社、合名会社等があります。株式会社は、有限責任、財務諸表公開、資本の証券化が特徴です。普通、会社といえば株式会社です。株主が会社の所有者となりますが、経営実務は株主とは別の経営者が行うこともあります。有限会社は、一般的には株式会社より小規模な企業が多いですが、有限責任の部分は同じです。財務諸表公開、資本の証券化は不要です。合資会社は、出資者が設立する組織で有限責任ですが有限会社よりももっと簡略化された組織形態です。合名会社は、出資者には無限責任がかかります。
中小企業の定義は、資本金1億円未満又は従業員300人未満(小売・サービス業を除く)、資本金1千万円未満又は従業員50人未満(小売・サービス業)となります。中小企業は日本の全法人の99%以上、日本の全雇用者の7割以上を占めています。会社の知名度では大企業に負けていますが、日本経済を支えているのが中小企業です。
中小企業の大企業と比較したとき、中小企業にはどんな特徴があるでしょう。中小企業の強みは、独自性の発揮、機動性、迅速な意思決定と実施、地域への密着性が挙げられます。一方、中小企業の弱みは、個人的色彩、家族労働依存、社会的信用度の低さ、下請的立場、人材確保難が挙げられます。
このような特徴を持つ中小企業が、強みを更に活かし弱みを克服するには、地域の異業種の提携と交流を通じて、大企業の発想とは異なる新しい製品・サービスの開発提供などが求められます。中小企業のメリットである迅速な意思決定と独自性が役立ちます。中小企業の弱みはまさにヒト、モノ、カネの経営資源に制約があることです。市場細分化及び集中化戦略で競争優位を確保します。規模が競争力を決めるような価格競争にならないようにすることが大切です。個人経営であれば、後継者の育成も課題です。
欧米の企業と比較すると、日本企業には特徴があるといわれます。これは日本的経営と呼ばれます。日本独特の企業慣習を幾つか列挙すると、①学校卒業時の社員採用と企業内教育、②終身雇用、年功序列による昇進・給与、③社宅等の厚生費用の支給など従業員福祉の重視、④集団的意思決定(ボトムアップ、稟議制度、全会一致)と不明確な責任と権限、⑤企業別組合、⑥間接金融中心、メインバンク制、株式持合いなどです。これらは、国際経済の上で日本企業の強みになると同時に、経済の非効率性や弱み(成長の限界)にもなり、日本市場に進出を試みている欧米企業にとっては閉鎖性を表すものとして解釈される場合があります。リスクを回避する風土、企業風土の硬直性、トップが現場を把握できない、管理部門の肥大化など、日本的経営は、強みを発揮すると同時に、それ自体が経営上の問題になることがあります。
経営書による定義では、組織とは、一定の目的を達成するために、複数の人がそれぞれ役割分担を定め協働する集団です。組織成立の条件として、①共通目的があって、②コミュニケーションが良好で、③貢献意欲があることです。組織が機能するためには、①マネジメントの原則、②分業の原則、③権限・責任一体化の原則、④命令・指揮の一元性の原則、⑤目標の認識と共有の原則、⑥専門化の原則、⑦統制の範囲・グループ化の原則に則った組織化が必要です。
内部経営資源や経営の外部環境が変われば、その変化に合わせて最適な組織形態も変わっていきます。機械的組織は、単純な形態に利点がありますが、変化に合わず、非効率な組織となってしまいます。有機的組織は、硬直した組織とせず変化に柔軟に対応できる組織です。環境が変われば組織も変わります。
誕生間もないベンチャー企業でなければ、企業は過去からの長い歴史をもっています。この長い時間の中で、組織内に浸透し無意識のうちに共有される価値観・行動様式が醸成されます。これが企業風土です。個人個人にカラーがあるように、企業にもカラーがあります。企業風土(組織文化)は無意識で目に見えないからといって、軽視できません。無意識のうちに共有している価値観・行動様式は、明文化されている規則や経営方針とは異なり文字通り意識されないため、知らず知らずのうちに、経営上の壁となってしまいがちです。これが普通、これが常識という固定観念で、変化の激しい外部環境にうまく適応できなくなる可能性があります。この、目に見えない企業風土を捉え、経営上の阻害要因となっていないか常日頃から意識することが大切です。企業風土は、経験蓄積、成功体験により形成されがちです。経験蓄積、成功体験は、従業員や組織に自信をもたらすと同時に、硬直した考え方を生み出しやすいものです。
組織は、個人の集団であり、個人個人の能力が組織の能力を決定づけますが、学習によって個人の能力を上げ、集合体としての組織の能力を高めることができます。まずは、従業員への教育訓練です。職種、階層ごとにその職務に対応した教育訓練が必要です。新入社員への教育訓練はどの企業でも一般的ですが、一定の勤務年数のある社員、役職では中堅社員、管理職層などを対象とした教育訓練は弱いといえます。新入社員時の1回きりではなく、新入社員から中堅社員、管理職へと各段階での教育訓練が必要です。経営資源や外部環境の変化が続く中では、普段の仕事以外の知識も今後必要になってきます。
個人だけでなく、組織も学習します。仕事は組織で行うものです。日々の業務により、組織で情報の蓄積、試行錯誤的行動(組織学習)の蓄積が図られます。次に同様な業務を行うときは、過去の経験で得た知識を活かし、より効率的に実施することができます。経験から得た知見で、業務の見直しを行い、その結果得た知見でまた業務を見直し、これを繰り返す。これで生産性を持続的に向上させることができます。業務の累積量や生産の累積量の増大に応じて生産性も向上していく性質を、経験曲線効果といいます。逆に経験曲線効果を得るためには、経験から得た知見で必ず業務の見直しを行うことです。業務の問題点は明文化して組織全体で共有し、問題解決の分析をし、業務の見直しを実行する。これを絶え間なく繰り返すよう組織管理することです。業務がうまく進んでいる場合は、成功要因分析、そうでない場合は失敗要因分析で、分析結果を業務見直しにつなげます。注意すべきは、明文化しやすい形式知だけでなく、明文化しずらい暗黙知も知見の抽出と組織での蓄積ができるようにすることです。組織の構成や管理で、個々人の集合体以上の能力(組織的能力)を持たせることが可能です。
職能部門別組織は、総務部、経理部、購買部、生産部、営業部のように仕事の種類で部門分けをした組織で最も一般的な形態です。事業部制組織は、半導体事業部、家電事業部、通信機器事業部のような組織を作り、各事業部内に、総務部、経理部、購買部、生産部、営業部のような職能部門がぶら下がる、いわば、各事業部が一つの会社組織となっているものです。大企業で多いパターンです。事業部制の特徴は、事業部が利益責任単位となっとり、事業部ごとに売上や利益を計算し業績評価することです。大企業においては、組織肥大化による大企業病を防ぐための組織構成といえます。事業部制組織が製品ごとの縦割り、職能部門別組織が職種ごとの横割りと見るならば、縦割りと横割りの弊害をなくすように組み合わせたのが、マトリックス組織です。マトリックス組織は、製品ごとの縦割り組織であっても、縦割り内の職能組織(総務部、経理部等)が横のつながりでも結ばれているものです。縦割りと横割りの両方の機能を持つものですが、組織が複雑になりすぎる、指揮命令系統が不明確などの問題点もあります。形態的に見た組織構造より、経営戦略の遂行部隊として組織の構造を規定するのが、戦略的事業単位の考え方です。立案された戦略ごとにそれを実行する組織を設け、戦略の実行状況が組織単位で見て把握できるようにしたものです。
組織をより細かい単位で見たときには、3つのタイプに分類できます。ライン組織は、上司と部下の組み合わせで一つのラインを形成します。指揮命令系統が統一、権限と責任が明確なことが利点です。伝統的なスタイルですが、現代の変化の激しい環境の中では、環境適応への柔軟性に欠けるとの指摘があります。ファンクショナル組織は、会社の機能を幾つかに分け、それぞれが業務分担による専門化組織として動くものです。組織間の関係はフラットで業務によって密接に関係したり関係が薄くなったりします。ラインアンドスタッフ組織は、従来からあるライン体制に専門的業務を行うスタッフを配置し、定常的な業務と高度な専門的な業務の両方に対応させるものです。近年、業務が複雑化・高度化しています。定常業務が中心であった時代と比べ、専門的業務を司るスタッフ部門の強化が求められるようになってきました。
経営組織を設計するのにあたって基本となる人事管理の原則には以下のものがあります。
会社の業務を幾つかのサブ業務の組み合わせと考え、それぞれのサブ業務を専門に担当する部署を構築するもので、組織設計では一般的なものです。
権限の大きさと責任の大きさを対応させる原則です。ある業務を担当となった部署には、業務遂行の権限と責任が付与されます。担当部署であれば、担当分野の権限と責任があるというのは暗黙の了解事項とはなりますが、重要なことは、明文化し社内であらためて確認することと、実際上も、この原則が守られることです。伝統的なライン型組織の場合はそれほど問題とはなりにくいですが、近年、組織構造はマトリックス型組織、ラインスタッフ型組織として複雑化しており、非定常業務が発生したときなどは、混乱が起きやすいです。非定常業務や、突発的事態、外部環境の急変時など、不測の事態に対応した、指揮命令系統、権限と責任の所在を明確化、社内での共有が必要です。
指示・命令が2か所から降りてくれば現場は混乱します。非定常業務が発生したときなどは、混乱が起きやすいです。非定常業務や、突発的事態、外部環境の急変時など、不測の事態に対応した、指揮命令系統、権限と責任の所在を明確化、社内での共有が必要です。
一人の人間が目配せできる範囲には限界があります。人事管理などは、10~20人程度となります。この規模が一つの部署の大きさとなります。その部署を幾つかまとめて管理する上の部門、その部署を幾つかまとめて管理する更に上の部門というように組織は階層構造となります。一方、組織を式命令系統で縦に見ると、階層が少ないほど、意思決定や方針の浸透・実行が早くなります。階層が少ないほど効率的です。管理の幅と階層はトレードオフの関係にありますが、会社の事業に応じた最適な管理の幅と階層を設計しなければなりません。
経営には経営目標があり、その目標を達成するためには、各組織にも達成すべき目標があります。目標をブレイクダウンしていけば、経営目標を達成するための個人の目標が設定されます。逆に、個人の適切な目標設定によって、会社の目標達成が決まります。経営的視点だけでなく、労務管理の点でも個人の目標設定を重要です。高すぎず低すぎず適切に設定された目標は、職務へのモチベーションになります。設定された目標の達成度を評価することで、人事の適性や個人業績評価が行えます。達成進捗度を見て、進捗管理や仕事のアドバイスができます。目標未達の場合は、原因分析で改善につなげます。
業務改善により効率化や生産性の向上を図ろうとする場合、経営者だけがアイデアを出すのではなく、社員一人一人に広く業務上の課題や改善アイデアを提案してもらう制度です。たくさんの人に提案してもらうことで、よいアイデアが集まると同時に、経営者の目の届きにくい現場レベルでの課題提起や改善提案が得られるだけでなく、社員の提案が経営に活かされれば、社員の士気向上につながります。
現場レベルでの課題提起や改善提案を現場の社員の小集団で実践するものです。アイデアを出し合うことや話し合いで、チームとしてアイデアを磨くことができます。現場レベルですぐに実行することもできます。
ある課題の解決や実行を考える場合、既存の組織の既存業務に付加する形よりも、課題の解決や実行を目的として新規にチームを作り実施した方がよい場合があります。
組織や個人の役割は、与えられたもの、という意識ではなく、自ら、自分の適職を選択する制度です。個人のモチベーションを上げるだけでなく、会社側から見て適材適所の人事、もっとも重要な経営資源である人材の新たな活用法になります。 ジョブローテーションは、日本的経営の一つですが、会社内での長期の人材育成を考えた場合に、仕事をしながら継続的に学ぶ手法の一つといえます。
マーケティングは、自社製品やサービスをより多くの顧客に購入してもらうための様々な活動です。製品を作っても、サービスを考案しても、何もしなければまったく売れません。マーケティングの活動によって、売上が変わってきます。消費者の需要を創造し購入に結び付けることがマーケティングの目的です。マーケティングの基本は、顧客志向であることです。企業側ではどうしても企業側の視点で製品やサービスを見てしまいがちですが、顧客の視点で見ることが大切です。マーケティングでは、「製品」×「市場」×「顧客」がキーワードとなります。
消費者が購入するまでには、いくつかの段階があります。①消費者に自社製品やサービスを知ってもらうこと、②それが魅力的なものであると認識してもらうこと、③消費者に提供する手立てがあること、この3つが必要です。一番目は、広告宣伝です。だれ(ターゲット顧客)に対して何のメッセージ(商品の魅力、付加価値)を伝えるか、効果的な広告宣伝が必要です。マスメディアによる広告宣伝、ウェブサイトの利用、店舗等の販売場所での広告宣伝活動です。二番目は、ターゲット顧客の設定、ターゲット顧客にアピールできる商品特性の抽出がカギとなります。価格設定も重要です。製品ポジショニングや製品分析を行います。三番目は、消費者に提供する手立てとして、流通チャネル、販売方法の検討があります。
競合他社がある中で、自社製品やサービスを伸ばし利益をあげるには、製品差別化と非価格競争がカギとなります。マーケティングの目標として、売上、利益、市場シェアなどがありますが、どれを目標とするかでマーケティング戦略が変わってきます。代表的なものにプッシュ戦略とプル戦略があります。プッシュ戦略は、消費者への人的販売、販売促進活動、リテールサポート重視で、個別マーケット志向です。プル戦略は、広告宣伝により商品力をアピールするものです。マスマーケット志向です。
代表的なマーケティング戦略には、代表的なものに4つのPがあります。Production(製品戦略)は、どのような製品を市場投入するか、競合企業の製品を意識し、消費者の認知においての差別化(製品ポジショニング)を図ります。Price(価格戦略)は、単純に製造コストに利益を上乗せして販売価格とするのではなく、競合製品の価格を見ながら価格設定し、価格自体を消費者にアピールするものです。同種の製品で競争しているのなら、競合製品より少し安く価格設定することで有利になります。競合製品から機能を減らし、その代わり思い切った価格設定をするなどです。逆に、高価格品を投入することで、ブランドの醸成、高級品志向の消費者の需要に応える戦略もあります。Promotion(プロモーション戦略)は宣伝、販売促進活動です。顧客ターゲットの設定や、設定された顧客層に接点が多く製品の魅力をアピールできる宣伝と販売促進活動の立案です。この活動で、消費者への認知で競合製品との差別化を図ります。Place(チャネル戦略)は、流通過程における戦略です。インターネット販売、代理店販売、直営店設置、流通業態別戦略策定、リードタイムや配送コスト削減の工夫等です。
市場には、消費者、競合他社があります。消費者は不特定多数だからといって漠然と捕らえるのではなく、消費者を、年齢、性別、所得階層、職業などでセグメント化し、どのセグメントが消費者となりえるか分析します。例えば、ファッション関係であれば、20代女性層、消費財ではなく生産財であれば、どの業界かなどです。ターゲットとする顧客を設定すれば、その顧客の行動特性や嗜好にあった商品企画、販売促進戦略を明確化できます。
顧客ターゲットは、顧客をカテゴリー化することで、自社の商品がどの層にアピールするものであるかを分析してマーケティングに活かすこと、どの層に注目して、その層にアピールする商品を開発するために行います。カテゴリー化の方法は、①地域で分ける、②性別、年齢層で分ける、③職業、所得階層で分ける、などです。カテゴリー化した顧客層の共通するパターン(心理、行動、購買習慣)を抽出できれば、商品開発やマーケテイングのヒントとなります。あわせて、注目する顧客層が年々拡大しているのか、縮小しているのかは重要です。拡大しているのであれば、その顧客層をターゲットとすることはビジネスチャンスとなります。ただし、競合他社も同様に考えている場合もあるので、他社動向に注意が必要です。
自社製品と競争製品を消費者の知覚の次元で分類し、空白部分の市場機会を探るものです。横軸に商品コンセプトの一つ、縦軸に別の商品コンセプトを一つ取り上げ、自社の商品群をマッピングします。ポイントは、各商品が重ならないようにバランス良くマッピングされているか、消費者のトレンドの方向性に応えたマッピングとなっているかの確認です。自社の商品群だけでなく、競合他社の商品群もマッピングすれば、商品の競合関係や棲み分けの状況もつかめます。2次元にマッピングすることで、商品の性格を視覚的に把握することができます。横軸に市場シェア、縦軸に市場成長率をとればPPM分析に、横軸に利益、縦軸に市場成長率、プロットする円の大きさを売上に対応させれば、商品群の見直しや各商品ごとのマーケティング戦略の策定に使えます。
複数の製品を市場投入するとき、製品間で、機能や価格帯、ターゲット顧客の棲み分けを図り、基本製品とオプション品、周辺機器のセットの品揃えで、個々の顧客の様々な需要や、様々な顧客層の需要に応えることができます。
様々な製品・サービスを提供している企業において、製品管理をする一手法です。製品やサービスは、必ずしも一様に同程度売れるとは限りません。製品やサービス間でバラツキがあるのが普通です。ABC分析は、バラツキがある製品・サービスを一様に管理するのではなく、「分割して統治せよ」の考え方で製品・サービスをA、B,Cに分割して管理方法を定めるものです。例えば、売上に注目したとすると、売上額で製品・サービスをランキングし、売上の高い製品群をA、その次に売上の高い製品群をB、売上の悪い製品群をCとクラス分けします。A、B,Cそれぞれのクラスごとに、販売戦略を変えます。例えば、Cクラスの製品は打ち切るとか、集中的に広告宣伝を投入するとかです。
需要がどうなるかはマーケティングの基本です。今後、市場規模が拡大していくのかどうか、顧客の動向、潜在顧客の動向はどうかです。特に顧客として顕在化していない潜在顧客の見通しが重要です。既存商品だけでなく取扱いのない商品の分析も行うことです。市場規模は一般に売り上げ規模を表していますが、収益性の分析、収益性の今後の動向も重要です。
競争他社の商品、価格、販売促進活動、流通、いわゆる競合他社の4つのPを捉え分析し、自社との競争関係、例えば競争を選択するか棲み分けを考えるかを明確化します。小売業であれば、商圏分析として地理的な要因を考慮した競争を選択するか棲み分けを考えるかです。
顧客に自社の持つ付加価値をアピールするには、3つのキーワードで訴えるとよいです。携帯型デジタル製品であれば、「薄い」「軽い」「安い」がキーワードとなります。キーワードは、消費者から見て検証可能なものでなければなりません。例えば、「処理が速い」「機能が豊富」といったようなアピールは比較の具体的対象が必要ですし、実際に購入し長く使ってみなければ確認できないものです。「薄い」「軽い」「安い」は、売り場で容易に検証(実際に手に取ってみる、他社品と価格を比較する)可能です。消費者が容易にキーワードの意味を理解でき、他社と差別化が可能で、消費者自身が容易に検証可能なキーワードを抽出できれば、付加価値をアピールできます。また、キーワードを生み出すような事業モデルや製品戦略を考案することが、逆に付加価値を作り出すことになります。
商品は、その性格で最寄品、買回品、専門品の3つのタイプに分けることができます。最寄品は、食料品や日用品など金額は低いけれども購入頻度が高く、店舗までの距離が購買決定に影響するものです。買回品は電化製品などの耐久消費財で、高額品ながら購入頻度は低いものです。店舗までの距離より、商品の品揃えや価格などが購買決定に影響します。専門品は、ゴルフ等のスポーツ用品やブランド衣料など販売店舗が限られるものや、薬など専門のお店が指向されるものです。特定商品の品揃えの充実、商品に関する専門知識の豊富さが購買選択に影響します。
製品にはライフサイクルがあります。製品のライフサイクルごとに、それに応じた販売促進戦略があります。製品ライフサイクルにあわせて、製品差別化戦略と市場細分化戦略を組み合わせます。
導入期の価格戦略は主に2つです。①上層吸収戦略:高価格設定で価格弾力性の小さい顧客層をターゲットとし、ブランドイメージを確立する戦略です。製品差別化による非価格競争状態で、量産または新規参入が困難な場合に適しています。②市場浸透戦略:低価格設定で価格弾力性の大きい顧客層を開拓し、大きなシェアを確立して、製品を広く消費者に認知してもらう戦略です。高シェアと低価格販売により競合他社の参入障壁をつくり、規模の経済、経験曲線効果により有利にコスト削減が可能な場合に適しています。
成長期の価格戦略は、製品ラインの拡大と価格帯の増加で市場細分化へ向かう戦略です。 上層吸収戦略の企業は、大衆層を狙った製品を追加し、フルライン戦略を指向します。市場浸透戦略の企業は、上層を狙った高価格品を追加し、フルライン戦略へ展開します。ただし、大衆イメージの定着により高級化が難しい場合もあるので注意が必要です。
新商品は、以下のプロセスで開発販売が進みます。
製品差別化を図るうえで、ブランドの構築は有効な手立てです。高級品、高品質、高性能のイメージを消費者に持たすことができれば、差別化ともに高価格を維持でき、新商品を投入したときも、この会社の商品だからということで、信頼性を得ることができます。ブランドの利点は、一旦消費者の信頼を得れば、持続性が高いこと、商品群全体に対してブランドイメージが醸成されることです。企業イメージの確立、価格競争回避の手段となります。プライベートブランドは、小売店自身が独自に開発した商品の発売元となって売り出すことです。価格や商品設定で小売店側に自由度があること、競合他社では扱っていない、この小売店だけの商品ということで競合他社の影響を防ぐことができます。
顧客を知るには、顧客を、その持つ共通の性質でカテゴリー化して、カテゴリー化された顧客層のトレンドを把握することです。漠然としか捉えられない顧客を分類し構造化することを、市場細分化(市場セグメント)といいます。細分化の方法には、以下の視点での方法があります。①地理的基準:都心と郊外、地方都市部、農村部で顧客の特性を分類します。東日本、西日本、中部というような分類もあります。小売業であれば、徒歩圏内や交通機関の状況により商圏を設定できます。 ②人口統計学的基準:男性と女性、若年層、中高年層、高齢者層など性別・年代で分類します。それぞれの階層の嗜好性、考え方、経済状況、それぞれの階層の人口変化を捉えます。近年、高齢化が進み、若年層が減少する一方、高齢者層は増加しています。 ③心理学的基準:顧客の心理的反応パターンを分類したものです。 ④社会学的基準:職業、所得水準、家族構成などで分類したものです。 ⑤重複顧客層:顧客が重なる商品は、競合関係にあるといえます。例えば、携帯電話通信料とカラオケは若者層がメインの顧客で、所得と総支出が毎月ほぼ一定だとすると、携帯電話通信料が増えた月は、カラオケへの支出が減る傾向にあります。
市場セグメント化後に取るべき戦略の選択肢としては、以下のものがあります。無差別的マーケティングは、市場セグメントの差異より共通性を重視する。セグメント間の共通性を抽出し、その部分をアピールできる製品を市場に大量投入するものです。市場規模は大きいため、競争力に自信のある企業が選択します。差別的マーケティングは、市場セグメント別にマーケティングする。各セグメントに合わせた製品を投入し、市場の多様なニーズに応え、どの層にも訴える戦略です。集中的マーケティングは、特定の市場セグメントに集中する戦略で、集中することで対象顧客層へのアピール、他社との競争力確保を狙います。
消費者について知ることは、消費者ニーズにマッチした商品開発やマーケティングに不可欠です。消費者が商品を購入するまでの購買決定プロセスを考えると、何が購買に結び付いているか分析できます。購買決定プロセスは以下のようになります。まず、商品に対する何らかの欲求が発生します。問題認識です。その後、自分の欲求に合う商品を探す探索行動があります。探索された商品は、欲求を満たすものであるか評価されます。評価行動です。一番評価されたものが購買されます。購買決定です。購買して実際に使用してみないと、それが当初期待したものであったかどうか確認できません。購買後の評価によって、購買行動が正しかったか検証されます。購買が期待されたものでなかった場合には、主に2つの心理的パターンとなります。一つは、購買を後悔することです。もう一つは、購買を後悔しつつも、購買行動を正当化し自己納得することです。これを認知的不協和といいます。購買行動の決定要因としては、商品の特性(機能・性能、価格、デザイン)だけでなく、消費者の心理的側面が大きく影響します。それらは個人的特性(人口統計学的)、集団的特性(家族、準拠集団)、文化的特性(社会階層等)の3つです。
自社製品の市場の位置づけから、最適なマーケティング戦略を選択します。①自社が市場リーダである場合は、製品フルラインの品揃えで、市場シェアと利益の最大化を図ります。②自社が後発組で市場チャレンジャである場合は、リーダとの差別化を図り一定の市場シェアを確保したうえで、最終的にはシェア1位を目指します。別の戦略としては、市場フォロワとしてリーダを追随する戦略をとり、ローリスクで一定の利益を確保します。また、後発組であれば、競争の激しい市場を避け、市場ニッチャとして、市場規模は小さいが競争相手がいない特定分野で独自の地位を気づく戦略もあります。市場規模が小さい市場なので中小企業向きといえます。
新しい製品やサービスが市場に浸透・普及していく過程は4つのタイプの消費者によってもたらされるという説です。新しい製品やサービスが市場に投入されたとき、革新者タイプの消費者が購入します。このタイプの消費者は新しいもの好きで他者の評判よりも自分の考えで購入する層といえます。広告宣伝では製品の革新性をアピールします。これに初期採用者が続くと、市場浸透が進みます。広告宣伝では製品の機能性・経済性をアピールします。初期採用者が増え普及が進むと、製品の知名度が上がり、評判の情報も増加します。評判の情報の増加は、それ自体が広告宣伝効果をもたらし、追随者タイプの消費者の購入が増えます。最終的には、非購入者を除いた市場規模で収束することとなります。このプロセスは、普及曲線の数理モデルでも説明できます。
プロモーションの方法には下記のものがあります。選択するマーケティング戦略に応じて、もっとも効果のある方法を選びます。広告は一方向性のある媒体ですが、反復して認知させることが可能でもっとも一般的なものです。パブリシティ(広報)は、商品の宣伝というよりも、会社そのもののイメージや会社の信頼性の醸成をもたらすものです。プロモーションとしては、リテールサポート(販売会議、販売訓練、POP広告)、カタログ作成、実演販売、展示会、特典企画、人的販売などがあります。様々な手段を通じて、顧客とのコミュニケーションの確立・維持に努めなければなりません。
流通チャネル戦略は以下のものがあります。①開放的チャネル政策は、どの流通経路にも乗せ、なるべく多くの消費者へ商品が届くようにする戦略です。最寄品(食品、日用品等)に多い形態です。 ②限定的チャネル政策は、系列化した流通チャネルを通じて販売するもので、流通系列化による売上確保と取引費用削減を図るものです。家電製品に多い形態です。③専売的チャネル政策は、1地域1販売窓口を設けるなど、販売チャネルを絞って販売することです。専売店を設けることで、価格維持、ブランドイメージの確保、きめ細かなサービスの提供を図ります。イメージ差別化に役立つ形態です。
同質のものであれば、価格が安い方がいいに決まっています。最も価格の安いものだけが売れるためには、①同質のものが存在すること、②価格を比較できること、③最も価格の安いものを購買可能なことが条件となります。インターネットの発展は、価格の比較や購買手続きを容易にし、同質的なものは価格競争が激化し利益を出しにくくなっています。一方、同質的なものが存在しない商品は、インターネットが発展してもマイナスの影響は受けません。ごく特定の消費者しかアピールしない商品では、ネット検索により認知度が高まり、需要はむしろ増大する可能性すらあります。よって価格競争を避けるには、他社のマネができない独創的な商品を提供するか、他社が参入できないような参入障壁を作るか、ニッチ市場に特化するかが必要となってきます。
企業は、資金を調達し、その資金で設備投資をし、生産のために必要な投入(原材料、労働力等)を行い、製品を産出して販売し、資金を回収します。このサイクルを繰り返すことで事業を継続して行い、利潤をあげます。事業を行う過程で、売上による資金の獲得、資金調達による資金の獲得、資金の支払いなどを記録し、事業の実態を把握し、業績を評価し、経営計画の策定や見直しを行い、運転資金と資金繰りの確認を行うのが財務管理です。
企業会計においては原則的なことがあります。それを列挙すると、①真実性の原則(真実を報告すること)、正規の簿記の原則(正確に作成すること)、③資本取引、損益取引区分の原則(資本の記録と損益の記録の両方を行うこと)、④明瞭性の原則、⑤継続性の原則(長期に渡って同じ方法で継続的に記録すること)などです。
財務管理の始めの一歩は、お金の出入りの記録を付けることから始まります。日々の収入と支出を、発生したその都度記録します。経営管理に使うには、月別にまとめた資金繰り表を作成します。資金の管理は、現金資金と運転資金の現状把握と計画が重要です。資金運用表を作成し、月々の現金の出入り、手持ち資金の状況、今後の見通しを常にチェックします。
月別会計簿の例 収入の部 売上収入 借り入れ 新規自己資金 補助金 支出の部 仕入費用 人件費 広告宣伝費 事務所維持費 設備投資 月間収支 前月内部留保金 月間収支 来月内部留保金
会計記録の意義としては主に以下の3つです。
企業の会計を表現する基本資料は、貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書の3つです。貸借対照表は、ある時点(例えば平成23年3月31日現在)の自己資金、借金、資産の状況が、損益計算書は、一定期間(例えば1年間)の売上、利益など会社の業績が、キャッシュフロー計算書は、一定期間(例えば1年間)の入金、出金など会社からの現金の出入りを表したものです。
貸借対照表は、ある時点の財務の状態を表にまとまたもので、これを見れば会社がどのように資金調達して、何に使っているかが分かります。左側に、資産の部、右側に資本の部が置かれ、資産=資本となります。資本の部は、借入(他人資本)と自己資本で構成されます。自己資金100万円、株式発行による調達100万円、借入による調達100万円なら、資本は300万円で、貸借対照表では図のようになります。この300万円の使い道を資産の部に記入します。資産は、1年以内に換金可能なものを流動資産、1年以上のものを固定資産といいます。例えば、機械設備を200万円で購入すれば、固定資産が200万円計上されます。現金は200万円減り、残りの100万円を金融機関に預けると、流動資産が100万円計上されることになります。購入で現金は200万円減額となるが、替わりに200万円の価値を持つ機械設備が手に入るので、資産の総額は変化しません。過去と現在の貸借対照表を比較すれば、借金の増減、資産の増減、自己資金の増減が把握できます。
貸借対照表の構成: 資産、負債、資本で構成され、資産=負債+資本となる。 資産の部 流動資産(換金の容易なもの、現預金、株式) 固定資産(換金が容易でないもの、不動産、機械設備) 無形資産(特許、ソフトウェア、名声・評判) 負債の部 流動負債(1年以内に返済が求められるもの) 固定負債(上記以外) 資本の部 自己資本(出資金) 資本準備金 内部留保金
前年度と今年度の貸借対照表を比較すれば、借入金、自己資本、資産の変化が把握できます。注目点は、短期借入金(流動負債)と換金が容易な資産(流動資産、当座資産)です。すぐに返済が必要なお金の額、自由に使えるお金(手持ち資金)の変化の把握は、会社の安定経営に必要です。貸借対照表は、調達した資本と所有する資産の構成が示されているので、どの部分に変化が生じたのかが分かります。
科目 | 前期 | 今期 | 来期計画 |
流動資産 | |||
現金預金 | |||
受取手形・売掛金 | |||
有価証券 | |||
棚卸資産 | |||
固定資産 | |||
建物・構築物 | |||
機械装置 | |||
土地 | |||
無形固定資産 | |||
投資有価証券 | |||
資産合計 | |||
科目 | 前期 | 今期 | 来期計画 |
流動負債 | |||
支払手形・買掛金 | |||
短期借入金 | |||
未払金 | |||
固定負債 | |||
長期借入金 | |||
退職給与引当金 | |||
負債合計 | |||
科目 | 前期 | 今期 | 来期計画 |
資本金 | |||
法定準備金 | |||
剰余金 | |||
任意積立金 | |||
期未処分利益 | |||
(うち当期利益) | |||
資本合計 |
損益計算書は、一定期間の企業の損益の状況をまとめたものです。企業は事業を行って顧客から代金を受け取ります。これが売上金です。売上金から直接経費(原材料費、研究開発費、減価償却費や製造部門の人件費)を引いたものが、売上総利益(粗利益)です。売上総利益から間接経費(営業や管理部門人件費)を引いたものが、営業利益です。営業利益から営業外損益(借金の利息払い、金融投資の配当・利息の受け取り、為替損益)を引いたものが、経常利益です。経常利益を通常「利益」と呼びますが、経常利益の概念は欧米の会計にはありません。経常利益から一時的な損益(資産の取得・売却)を加えたものが、税引き前利益となります。ここから税金を引いたものが、純利益です。純利益から役員報酬と株主配当を引いた残りが、会社の取り分(留保利益)となります。留保利益は、過去の留保利益の蓄積(利益剰余金)に加算され、利益剰余金が増加します。損益計算書は、売上から始まって、様々な損益を加算減算する計算過程を記述したものといえます。これを見れば、ある期間での代表的な業績指標である売上、利益、納税、留保利益分が一目で分かります。過去と現在の損益計算書を比較すれば、売上の増減、費用の増減、利益の増減、利益剰余金の増減が把握できます。
損益計算書の構成 売上高 原価(変動費) 売上総利益 営業費用(固定費) 営業利益 営業外費用(金利支払い等) 経常利益 特別損益(一時的損益) 税引前利益 税金 純利益 前年度内部留保 役員報酬 株主配当 次期内部留保
前年度と今年度の損益計算書を比較すれば、売上、利益、費用の変化が把握できます。損益計算書は、売上高から純利益までの計算過程が示されているので、どの段階で違いが生じたのか分かります。
科目 | 前期 | 今期 | 来期計画 |
売上高 | |||
売上原価 | |||
売上総利益 | |||
営業費・管理費 | |||
営業利益 | |||
営業外損益(利息、為替) | |||
経常利益 | |||
特別損益(資産取得、売却) | |||
税引前利益 | |||
税金 | |||
当期純利益 | |||
前期繰越利益 | |||
当期処分可能利益 | |||
役員賞与 | |||
株主配当 | |||
来期剰余金 |
キャッシュフロー計算書は、一定期間(例えば1年間)の会社への現金の出入りをもとめたものです。売上があれば入金、原材料費の支払いがあれば出金となります。設備投資を行えば出金、借入をすれば入金、借入を返済すれば出金として計算します。損益計算書でも売上やコストを計上していますが、違いは、損益計算書では会計上の入金と出金を記録したものであるのに対して、キャッシュフロー計算書は、実際に起きた入金と出金を記録していることです。例えば、損益計算書では売掛金と買掛金は、会計上の売上と支払として計上されるが、キャッシュフロー計算書では、実際に入金と出金がなければ計上しません。減価償却費は、会計上のコストとなりますが、実際に支払われるものではないので、キャッシュフロー計算書では計上しません。キャッシュフロー計算書の利点は、実際の本当のお金の出入りを把握できることです。どれくらいの現金を会社が持っているかを把握することは、運転資金の確保とやり繰り、投資計画、財務計画の立案に必要な情報です。キャッシュフロー計算書の中を分類すると、営業キャッシュフロー、投資キャッシュフロー、財務キャッシュフローの3つで構成されています。それぞれ、事業活動により実際に得た利益、投資の実際の出費、金融機関との実際の資金の出し入れを表します。
科目 | 前期 | 今期 | 来期計画 |
営業活動CF | |||
税引前利益 | |||
減価償却費 | |||
売掛金 | |||
買掛金 | |||
税金 | |||
投資活動CF | |||
固定資産の取得売却 | |||
有価証券の取得売却 | |||
フリーCF | |||
財務活動CF | |||
長期借入金の増加減少 | |||
短期借入金の増加減少 | |||
配当金 | |||
CF合計 |
会計書を作成すると、その数字で会社の業績が把握できるだけでなく、計算によって様々な分析ができます。ただし、計算結果の数字を見ただけでは、その経営上の意味を読み取ることはできません。分析手法として、計画と実績値との比較、昨年度実績と今年度実績との比較、同業他社や業界標準値との比較によって、意味を読み取ることができます。経営計画で立てた目標値と実績値の比較は、経営計画の妥当性の評価や、その差異がなぜ生じたのか原因分析により経営改善を図ることができます。 中小企業の場合は、中小企業の経営指標の数値が参考となります。
経営分析で代表的なものが損益分岐点分析です。売上高に応じて損益がどう変化するかを視覚的に把握できます。 横軸に売上数量、縦軸に売上金額と費用額を取り、売上と費用をグラフ化することで、様々な分析ができます。ポイントは、固定費と変動費で構成される総費用の見える化です。売上線と費用線の間が、損益を表します。交点は損益分岐点と呼ばれるもので、この点では売上=費用となり、赤字とならないためには、最低限この売上が必要ということを表します。売上線と費用線の間を見れば、一定の利益が得られる売上高が分かります。損益分岐点分析は、売上の目標を設定するのに有効な手法です。前提条件を変えると2本のグラフの位置関係が変わり、様々なシミュレーションを行うことができます。
固定費を増減させる → 費用曲線の平行移動 → 損益分岐点の変化 変動費を増減させる → 費用曲線の傾きの変化 → 損益分岐点の変化 販売価格を増減させる → 収入曲線の傾きの変化 → 損益分岐点の変化 利益目標を増減させる → 利益目標曲線の平行移動による売上高目標の変化
損益計算書を使って、利益を生み出す力を分析します。売上高と利益の推移に注目します。収益性の指標となるのは、売上高営業利益率(売上高営業利益率=営業利益/売上高)です。この変化を見ます。 収益性を改善するには、売上高営業利益率の向上のために、①売上原価の圧縮、②一般管理費・販売費の節減、③人件費抑制、 ④営業外費用の抑制(例えば借入金を削減し金利払いを削減するなど)を行います。更には、①売上債権の圧縮(代金回収率向上)、②棚卸資産の圧縮(在庫管理徹底)、③固定資産の圧縮(遊休資産の整理)を行います。
貸借対照表を使って、経営の安定性を分析します。借入金と自己資本の推移に注目します。健全性の指標となるのは、流動比率と自己資本比率です。この変化を見ます。
事業の効率性を分析します。効率性とは、与えられた有限な経営資源をどう効率的に使って利益に結びつけたかです。総資産利益率(ROA)は、借入や自己資金で調達した資産を使ってどれくらい利益を生み出したかを表します。株主資本利益率(ROE)は、株主の出資に対してどれくらい利益を生み出したかを表し、株主から見た投資収益率です。利益の一定割合が内部留保されて自己資本に組み入れられるとすると、ROEの値が、会社の成長度を示す指標となります。棚卸資産回転率は、売上高/在庫であり、大きいほど、在庫の回転がよい(不良在庫がない)ことを表します。総資本回転率は、売上高/総資本であり、大きいほど資本・資産の回転がよい(資本・資産の有効利用)ことを表します。
生産性を分析することで、限られた経営資源を最大限有効活用しているかが分かります。生産性の指標には下記のものがあります。企業活動は付加価値を生み出し顧客に提供することです。付加価値は次の計算式によります。付加価値=売上-(仕入+外注費)。
労働生産性=付加価値/従業員数 労働装備率=有形固定資産/従業員数 設備投資効率=付加価値/有形固定資産 資本生産性=付加価値/資本 付加価値率=付加価値/売上高 資本回転率=売上高/資本
キャッシュフロー計算書から経営の状況を見てとることができます。営業キャッシュフローからは、売上収入と費用支出(設備投資除く)の推移を見て、事業の採算性、持続可能性を評価します。投資キャッシュフローからは、投資の推移を見て、営業キャッシュフローで投資が回収されているかを確認します。財務キャッシュフローからは、借入と返済、利払いの推移を見て、資金繰りの状況を確認します。
ABC分析とは、商品(又は顧客)ごとの売上構成比を計算し、商品を利益貢献度に応じてA、B、Cとランク付けし、ランクごとに管理方針を決めるものです。管理方針としては、例えば、Aは更なる強化、Cは取扱いを再検討とするなどです。上位20%の商品が売上全体の80%を占めることが多く、これは、パレートの法則と呼ばれます。 顧客(又は商品)ごとに購買頻度、購買時期、購買量の尺度で評価しランク付けし、ランクごとに管理方針を決める方法もあります。これをFRM分析といいます。。既存顧客は、情報システムで管理すれば、購買行動を捉えることができます。その分析により顧客をクラス分けして、クラスごとにきめ細やかなサービスや販売促進活動で、既存顧客のリピート購入を促し顧客の固定化を図ります。
会社全体での業績を表し社外関係者に報告するのが財務会計であり、個々の事業の業績を分析し会社経営に活かすのが管理会計です。多数の事業を行っていれば、どの事業で利益が出て、どの事業では利益が出ていないかの把握は重要ですが、事業ごとに経営資源、変動費、固定費が分かれていない場合は、把握が困難です。各事業の業績評価には、事業ごとに経営資源、売上、変動費、固定費を分割し、利益計算(売上ー費用)ができるような工夫がいります。これが原価計算です。ポイントは、直接経費、間接経費の計算、一般管理費の積算、変動費、固定費の把握です。
経営管理では、様々な意思決定を迫られます。生産する手段として機械Aと機械B、投資案件として投資案Aと投資案B、生産販売するのは製品Aと製品B、どちらを選択すべきか等の判断です。複数の案の中で利益が高い方、コストが同じなら売上が大きい方、売上が同じならコストが小さい方を選ぶのですが、直接費、間接費の計算の仕方で結論が変わりえます。管理会計的手法を用いることで、客観的でより適切な判断をすることができます。
費用にはその性質によっていくつかに分類できます。活動量(生産、販売、輸送、売上、仕入れ、労働投入、資本投入、操業時間)に対して固定か可変かで分類します。直接費は、活動量に応じて費用が変化するもので、原材料費、生産工程の人件費、光熱費等が該当します。活動量が増えれば直接費は増加するので変動費とも呼ばれます。間接費は、生産販売に対して間接的にかかる経費で、直接費のように活動量に応じた変化はほとんどないものです。固定費とも呼ばれます。例えば、営業経費、管理経費(人件費、光熱費、通信費)などです。設備投資をすれば、その後の活動量に関係なく購入費用が発生するので、これも固定費となります。ポイントは、何の活動量に対して変動する(又は固定的な)費用なのか、で区分することです。一般的には、活動量として、生産販売量や売上を考えます。どの期間で費用管理を考えるかにも留意する必要があります。短期的に固定費と解釈できても、長期では変動費となるものもあります。変動費の計算では、時間に対する変動費は、単位時間あたり費用か、時間あたりの生産個数(1個あたりの生産時間)で、生産量に対する変動費は、1個あたりの費用、平均費用、限界費用で、いくつかの案を比較検討して選択することになります。
まず必要なのは固定費の把握です。固定費は事業規模にかかわらず発生する費用であり、業績好調時には問題となりませんが、業績低迷時には、変動費が削減できても固定費は下がらず、固定費が重くのしかかることとなります。費用は、まず固定費と変動費に分けます。各事業の限界利益(限界利益=売上-変動費=利益+固定費)を求め、多い順に事業を選択することになります。 事業ごとに次の指標を計算し、この値が高いものから順に事業を並べクラス分けして、クラスごとに管理方針を定めると、費用管理がしやすくなります。クラス分けの指標としては、①商品別粗利益率=粗利/売上、②商品別回転率=売上/商品平均在庫高、③ 交差比率=粗利益率×商品回転率、④商品貢献度=交差比率×売上構成比などです。
科目 | 今期固定費/変動費率 | 今期コスト | 来期固定費/変動費率 | 来期コスト |
直接材料費 | ||||
直接労務費 | ||||
直接原価計 | ||||
間接材料費 | ||||
間接労務費 | ||||
福利厚生費 | ||||
減価償却費 | ||||
賃借料 | ||||
保険料 | ||||
修繕費 | ||||
租税公課 | ||||
ガス料 | ||||
水道料 | ||||
旅費交通費 | ||||
雑費 | ||||
その他間接費 | ||||
間接原価計 | ||||
工場事務費 | ||||
動力費 | ||||
材料倉庫費 | ||||
補助部門配賦額 | ||||
合計 |
原価計算には、標準原価計算と直接原価計算があります。全部原価計算は、固定費を各事業に割り振り、事業の総費用を算出します。活動基準原価計算は、固定費を各事業の活動量に応じて割り振り、事業の総費用を算出するものです。直接原価計算は、変動費と固定費を分け、変動費のみ原価とするものです。売上から変動費を控除した「限界利益」「粗利益」で評価します。固定費は割り振りません。固定費は期間費用となります。
科目 | 前期 | 今期 | 来期計画 |
生産高 | |||
生産量 | |||
加工高 | |||
人件費 | |||
従業員数 | |||
総就業時間 | |||
固定資産総額 | |||
主要機械稼動時間 | |||
出勤総工数 | |||
不良数量 | |||
社外クレーム件数 | |||
不良率 | |||
生産高/人 | |||
加工高/人 | |||
固定資産額/人 | |||
固定資産回転率 | |||
人件費/人 | |||
加 工 高 比 率 | |||
労 働 分 配 率 |
企業の存在価値について考えるとき、立場によって価値に違いがでます。消費者であれば、自分が欲しい商品やサービスを提供してくれるならば価値があると考えるでしょう。従業員ならば給与水準や勤務内容です。投資家にとってはどうでしょう。会社の所有者ですから、会社のそのものの価値を評価しなかればなりません。一つは転売価値です。今、会社を売却したらいくらになるか、です。不動産、金融資産、設備の資産の評価になりますが、物理的なモノとしての評価ならば、設備の評価は低くなります。投資家であれば、会社(銘柄)の評価は配当と株式値上り益です。
様々な資金調達手段の中で最も大きな割合を占めているのは、銀行借り入れです。貸出資金量の需要と供給の関係によって金利は定まり、個々の企業から見れば金利は所与と見なすことができます。金利を所与とすると、投資案件の決定は以下のようにになります。
投資収益率(投資額とそれから生まれる収益との比)を計算します。これは投資額の関数となり正の傾きを持つが、投資額が大きくなるにつれ投資効率が悪くなり、傾きが小さくなると仮定できます。以下の方法で投資案件を評価します。①割引現在価値法:将来収益のフローを現在の価値に割り引き、投資額と比較して投資の妥当性や投資案件の選別を行うものです。②内部収益率法:割引現在価値法で現在価値がゼロとなる割引率を求めると、その値が損益分岐点を与える割引率となり、その値と実際に予想される割引率を比較すれば、投資の妥当性を検証できる。③回収期間法:案件ごとの投資の回収期間を考え、投資案件の選択(通常はもっとも早く回収できる案件を選択)を行うものです。
事業には資本が必要です。資本の調達方法には、株式発行、社債発行などの直接金融、金融機関からの借り入れ(短期借入、長期借入)などの間接金融、利益の内部留保や減価償却(減価償却分は会計上は費用だが実際の支払いはなく、その分を内部留保に回せる)などの自己金融があります。幾つかの調達方法からもっとも良い調達方法(資本コストがもっとも低い方法)を選びます。その結果、資本構成が決まります。健全な資本構成、必要資金の性格に応じた調達手段となっていなければなりません。
資本調達手段としては、株式発行、社債発行、銀行借入などの他、自己資金を使う方法があります。それぞれの特徴としては、①株式:株式は自己資本となるため、経営の安定をもたらすが、企業の業績を測る指標となる株価を維持するためのコストがかかる。これは、配当コスト、株主の期待に応える業績を挙げること等、他の手段に比べて調達コストは高いものとなります。②社債:借入なので、株式とは異なり、会社の経営権には影響しません。社債で設定する金利が調達コストとなります。③銀行借入:資本調達として最も一般的です。貸出資金量の需要と供給の関係によって、金利は影響を受けます。金利が調達コストとなります。④内部留保:会社の自己資金です。企業の挙げた利潤が企業の利害関係者に分配されたあと、企業に残った残余金が蓄積されたものです。内部留保は自己資金なので、調達コストが一見ゼロに見えますが、これを資金として使用することは、これを別の投資案件に使った場合に得られる利益を得る機会を奪うことになるから、別に使用した場合に得られる利益率が調達コストとなります。
資本の調達源泉(株式発行、社債発行、銀行借入、自己資金)ごとに区分し加重平均して資本調達のトータルコスト(資本コスト)を計算します。銀行借入金と社債は、金利がコストとなります。資本金と株主資本は、配当利回り、株価収益率がコストとなります。内部留保は、自己資金であり、一見コストがかからないように見えるが、内部留保金を活用すれば得られたであろう投資リターンや金利分が機会費用となります。
投資家への情報公開では、連結財務諸表におけるセグメント会計情報(事業単位、事業活動別)の開示、ウェブサイトの活用が最近の注目点です。ウェブサイトなどで、経営理念、会社方針、経営目標の周知も図ります。
事業計画書の項目例を示します。
科目 | 今期 | 来期 |
売上高 | ||
市場価格 | ||
売上個数 | ||
売上原価 (変動費) | ||
限界費用 | ||
生産量 | ||
営業費用(固定費) | ||
人件費 | ||
賃金単価 | ||
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在庫費用 | ||
管理・維持費 | ||
負債利子 | ||
設備投資額 | ||
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課税額 | ||
減価償却 | ||
資産処分 | ||
税引き後CF |
経営改善は、現状の経営状態の把握、つまり経営診断から始まります。経営診断によって、問題・課題の抽出と明確化を行います。問題・課題が明確化できたら、解決策を提案し、それが手順を進めることで実行可能となるように、投入する経営資源(人、モノ、資金、ノウハウ)を時間軸上で記した経営改善計画としてまとめます。内部経営資源だけでは経営改善が不十分となる場合は、外部資源(企業提携、金融支援、国・自治体の経営支援策)を活用します。
企業は常に外部環境の変化に応じて事業の見直し、新規事業の追加を行っていかなければなりません。新規事業は最初は試行錯誤となり非効率な状態のまま事業が行われるケースが多くなります。その後事業の継続や生産経験の蓄積を通じて学習していき、学習を通じて事業方法の見直しをたえず行い、効率化とコスト削減を図っていくことになります。新規事業こそ改善活動が欠かせないものとなります。
経営改善の基本は、売上を上げ、コストを下げ、その結果として利益を増大させることが基本です。売上、コスト、利益、どれも大切ですが、当面どれを重視するかは、企業の方針次第です。企業の成長を重視すれば、売上アップが優先となります。一般に、中小企業ほど、売上のアップが多くの経営問題の解決につながります。売上は変動が大きく、予想が当たらないことも多く、予想が外れると即経営リスクとなりやすいので、売上改善が重視されます。次に重視されるコスト削減の面では、優先的に行うべきは、固定費(人件費、不動産費用、広告宣伝費、管理費、設備費など)の圧縮です。それには、固定費の項目を調べ、不要なものを見つけ出し削減すること、外注や短期契約に変え変動費化を図ることです。
小売業では、売上を上げるための改善ポイントは、①客数を上げること、②客単価を上げることです。客数を上げるには、新規顧客を獲得すること、既存顧客のリピートを増やすことに分解できます。客単価を上げるには、最適な価格設定、複数商品の購入を誘発する仕組みが重要となります。売上を上げるための改善ポイントを別の切り口で見ると、以下のようになります。
売り上げデータ以外でも販売促進に使えるデータはいくらでもあります。一つはコーザルデータと呼ばれるもので、売り上げの変化の(間接的な)原因となるデータ、例えば、気温・湿度・天気、地域のイベントの有無、広告・チラシの効果などです。POSレジの発達で誰がいつ何を購入したのかのデータ取得が容易になり、例えば、性別、年齢、リピート率などの顧客情報と商品情報(価格、商品同士の相関)との関係分析から、売上増につながる要因の抽出が可能となります。もう一つは、口コミ情報です。口コミ情報はインターネットで大量にとることができます。口コミを分析することで、消費者の嗜好、サービスへの評価の情報が得られます。ネット情報には自分の店の評判が書き込まれている場合もあります。
公的支援策は様々にあります。主なものは、補助金、低利融資、専門家派遣、情報提供です。民間の金融機関で融資や援助を受けるよりも良い条件で受けられます。しかし、周知不足があり、中小企業の経営者には知らない場合が多いのが現状です。公的支援策を効果的に活用すればそれだけ経営力を強化できます。利用には申請が必要で、申請書には、詳細な経営計画や経営改善計画の立案が求められるます。申請をすることで、これをきっかけに詳細な計画の策定、方針の明確化、立案した計画の他者からの評価が得られるので、これ自体経営にプラスとなります。