経済を研究するのが経済学です。研究するとは、科学的側面と価値判断的側面があります。科学的側面では、①経済を記述すること、②法則性を見つけること、が目的となります。一方、価値判断的側面では、③望ましい経済状態を提示すること、④それを実現するための手段を提示することです。そもそも経済とは何かから説明を始めましょう。
「経済とは何ですか。」と聞かれて、すぱっと答えを返すのは難しいかもしれません。経済ニュースと言えば、景気がいいとか悪いとか、物価が上がっているとか下がっているとか、雇用や賃金はどうかとか、為替レートや株価が高くなったとか安くなったとかの話です。つまり、様々な経済指標の変化とその理由の分析が経済の話となっているのです。経済とは、抽象的に言えば、国や世界レベルで見た、モノやサービスの生産活動のことです。経済活動は毎日絶え間なく続いています。活動の状態は経済指標で捉えられます。指標が変化したときに、それがニュースとして伝えられるのです。人間の生産活動は様々です。直接生産活動に従事していなくても、生産されたモノやサービスの消費者として関わることもあるでしょう。よって、人間の数だけ生産や消費の活動があるわけです。
経済活動は、投入と産出で捉えることができます。経済活動は、モノやサービスを生み出すことですが、無から有は生まれません。産出には投入が必要です。投入するものとして代表的なものは労働です。生産には併せて、場所(土地)や設備も必要です。農業では、農地や農機具、工業では、工場用地や生産機械がこれに当たります。土地や設備を経済用語で資本と言います。経済活動は、資本と労働を投入し、モノやサービスを産出する活動です。
経済活動の主体となるのは、家計、企業、政府の3つです。家計は、労働者と扶養者で構成される、いわゆる世帯のことです。経済的に見た家計の機能は、労働者の労働によって収入を得て、その一部が労働者自身と扶養者が行うモノやサービスの消費に回る というものです。家計は、企業に労働力を提供し、賃金を受け取ります。賃金を使って、企業が生産したモノやサービスを購入します。この場合は消費と呼ばれます。企業も、別の企業が生産したモノやサービス(例えばパソコン、生産機械、委託業務等)を購入しますが、この場合は投資と呼ばれます。企業は、投資をして生産設備を整え、原材料などを仕入れして労働者を雇い、モノやサービスを生産する機能を司ります。政府は、家計や企業から税金を徴収し、そのお金で企業が生産したモノやサービスを購入します。これを政府支出と呼びます。政府は、家計から税金を徴収し、そのお金で企業からモノやサービスを購入したり、家計にお金を給付したりします。家計、企業、政府それぞれが、お金のやり取りを通じて密接に関係しあっています。この三者間で相互にお金が流れ、社会全体としてモノやサービスが生産・消費される様が経済活動です。
経済活動が盛んなのかそうではないのかという活動の程度は、指標で把握することができます。活動の程度を見るには、まずはその絶対水準を見ます。生産されたモノやサービスの量が絶対水準となります。経済では、生み出されたモノやサービスの価値は、金額で評価します。1万円の商品10個の生産は、10万円の価値を生産したと解釈します。1000円の商品20個の生産では、2万円の価値の生産です。生産されたモノやサービスは販売され、購入者の手に渡ります。そのとき生産者は売上金を受け取ります。受け取った売上金は、仕入れ元業者への支払いや労働者への賃金支払いなどで再支出されます。仕入れ元業者は、さらにその仕入元業者への支払いや労働者への賃金支払いに再支出されます。残ったお金は、会社に蓄積されるか株主に支払われます。売上から仕入れに充てた金額を引いたものが、経済活動によって生まれた価値(付加価値)です。これが繰り返されると、究極的には、生産された価値(売上金)はすべて会社の所得か家計の所得(労働者+株主)になると言えます。所得は、その一部がモノやサービスの購入に使われます。政府は税金を徴収し、そのお金を使って政府支出として企業や家計に還元します。
消費をするにはお金がないとできません。仕事をして賃金をもらう必要があります。その賃金はどこから来るのでしょうか。会社であれば、商品を消費者に売ったお金が原資になります。それには消費者がお金を持っていなければなりません。それには仕事をして・・・、というようにお金の流れは経済の中で循環します。堂々巡りで、お金の元々の出所は分かりません。お金は所有者を転々とするだけですが、その間にモノやサービスという価値が創造されます。無から有は生まれないといいますが、価値が生まれるしくみは、次のように考えればよいでしょう。
お金が存在しない物々交換の世界を考えます。10人の人が住む村があり、自給自足で生活するとします。全員が労働によって、各人が1種類のモノを10人分作るとします。ある人は穀物をつくり、ある人は野菜を作り、またある人は衣類を作り・・・というふうにです。自分が作ったモノは自身の消費分を除いた9人分のモノを他者が作ったモノとそれぞれ1人分を物々交換します。各人10人分作ったのですから、9人の人と物々交換できます。そうすれば、各人は、1人分の分量の10種類のモノを所有できます。この村で生まれた価値(モノの量)は10種類10人分ですが、これは各人の労働によって生み出されました。労働という投入要素によって産出が生まれたのです。物々交換を仲介するものがお金だとすれば、お金が価値を生み出したのではなく、生産活動によって価値が生み出されたのです。お金は単なる仲介手段にすぎません。
経済活動は日常的に行われるため、活動の絶対的水準を意識することはないでしょう。個々の家計や会社レベルでは、その金額をみれば、消費や給与など生活実感でつかめる金額と比較することで、どれだけ活動したかを直感できるでしょう。しかし、これが国レベルの集計値になると、金額が大きすぎてピンときません。そこで絶対額よりもその変化でとらえるようにします。時間的な変化をみれば、その大きさについてイメージできなくても、経済活動が大きくなっているのか小さくなっているのか分かります。これを見るのに最もよい方法はグラフを見ることです。グラフを見れば変化の方向性だけでなく、その変化の程度、変動の範囲、周期性など一目瞭然となります。では、どんなグラフを見れば経済の動きが掴めるのでしょうか?
前述したように、国や世界レベルの経済活動は統計によって捉えられます。よって、経済を読み取るには、経済統計を読み取ることです。自然科学現象を捉えるには、自然観察や実験を行いますが、経済の場合は人間の活動が対象となるので、統計の解釈には注意が必要です。統計値は金額単位で表わせるものを除いて、指数表現が多いです。この場合、絶対値が意味を持たず、値の時間的変化のみが意味を持ちます。金額単位で表わせるものでも、通貨の価値自体が時間に対して普遍的絶対的であるとは言い切れません。よって、値の変化に結局注目が行きます。
経済の動きを見る代表的な指標は、生産、物価、雇用、マーケット(金融市場)の動きを測る指標です。国内総生産、物価指数、失業率、株価指数などが、これに当たります。その中でも代表的なのが、国内総生産(GDP)です。これは、日本国内で1年間にどれだけの価値を生産したかを表します。
経済活動とは、土地や機械設備(資本)と労働力を使い人々にとって有益な財やサービスを生み出す活動です。この活動の程度は、経済的価値、つまり金銭的価値で測ります。商品が20万円で売れたら、その商品は消費者にとって20万円の経済的価値があるということです。その商品の原材料代が10万円なら、10万円の原材料を利用することで20万円の価値を持つ物が生産されたのなら、生み出された価値は20-10=10万円です。これは一つの商品について生み出された経済価値ですが、国内で消費者に提供されるすべての財サービスを対象とし、生み出された経済価値を総合計したものが、国内総生産(GDP)です。GDPは1年間に生み出した価値を金額で表したものですから、日本の場合では円が単位となります。ただしGDPは、その絶対額より、大きさの変化がより注目されます。GDPの時間変化をみれば、経済活動が大きくなっているのか、小さくなっているのかが分かります。
GDPの時間変化は、対前年度比率で表すのが一般的です。この比率は経済成長率とも言います。先進国では、通常、-3% から +3% ぐらいの範囲の値をとります。マイナスであれば経済活動の規模が縮小していることを表し、これを景気後退と言います。プラスであれば経済活動の規模が拡大していることを表し、これを景気拡大と言います。実際の経済成長率のデータを長期で見ると、景気拡大局面の期間があり、その後後退局面の期間になり、また拡大局面となるように循環的に変化します。景気の状態を、拡大と後退の2つのパターンで捉えれば、この2つが交互にやってくるのは当然ですが、重要なことは、一つの状態(拡大や後退)が永続的に続くことはないということです。景気は循環するという性質があります。
モノやサービスは様々であり、昔と比べて価格が上がったものもあれば下がったものもあるでしょう。物価は個々のモノやサービスの値段の平均的な動きを表したものです。物価が上がると、家計収入が変わらなければ、購入可能なモノやサービスは減ります。生活水準の低下を招きます。また、物価が短期で大きく上昇すると、モノやサービスの価値が短期では変化しないとすると、通貨の価値が低下したことを意味します。経済活動は通貨のやりとりで行われることを考えると、通貨の価値の低下は問題です。通常は物価高が問題視されますが、日本では物価安が問題視されます。
企業であれ政府であれ、それを構成しているのは個人であり家計です。家計は収入がなければ生活ができません。家計が安定して収入を得ているかは、雇用者数、失業率で見ることができます。失業率は高くなると、社会不安を引き起こす可能性があります。政府が注目する指標の一つです。
金融市場で価格形成される指標の情報で、株価指数、為替、金利、地価などです。マーケット情報は指標の値が時々刻々と変化し、経済状態の変化をすぐに反映する傾向があります。更に、経済状態の将来動向をいち早く反映する傾向もあります。マーケット情報の動きで、経済状態の短期的な変化、将来予想を読み取ることができます。
一つ一つの活動を描写するのは困難ですから、通常は全国をサンプル調査して、その統計値を持って経済活動の状態を描写することになります。統計値としては、国内総生産、物価、失業率、為替、株価指数などがあります。これらの経済指数の値や変化を捉え、原因を分析することが経済学です。ただし、あくまで捉えたいのは、統計数値ではなく、統計数値の先にある、人間の経済活動そのものです。統計は、経済状態を把握するための手段にすぎません。人間の経済活動を把握する目的は何でしょうか。経済活動の結果、人々の生活水準が向上し豊かになれるからです。豊かさは主に物質的豊かさですが、精神的豊かさも関係します。豊かになることによって、衣食住の確保や、文化的健康的な生活を送ることができます。経済活動の状態を把握し、問題点を見つけ改善することで、より豊かになれるのです。経済学の目的は、まさにここにあります。
さまざまな経済データを集め分析し、また仮説(モデル)を立て、実測データで検証し、その結果、何が得られるのでしょうか。経済学の目的は主に3つあります。
経済の状態を計測する目的は何でしょうか。経済の状態を評価するためです。望ましい状態となっているか、そうでないか、経済統計を見て評価します。「よい経済状態」とは見る人の価値観に係ることで絶対的なものはありませんが、一般的には、次のような状態です。
経済状態の変化に着目し、一定の範囲内で持続的にプラスであることが「良い状態」となります。統計の絶対水準に着目したものは、
などです。評価は、過去の値と比べて現在の値はどうかという視点と、外国と国際比較して自国の値はどうかと評価します。現実と理想の状態に差異があることが分かったら、理想の状態に少しでも近づくよう、政府は、経済政策を行い、経済に干渉します。
経済状態を理想的な状態に近づけるには、次の4つのアプローチをとります。
1番目は経済統計です。経済実態を正確に掴む統計を得ることが重要です。2番目と3番目は経済学による分析です。ここが経済学の出番です。4番目は、経済学による分析により提案された経済政策を実行することです。政府や自治体が実施します。
経済統計から以下のことが分かります。国内総生産が拡大しているとき(好景気)は、失業率は低下し、株価指数と地価は上昇していることが多いです。逆に、国内総生産が減少しているとき(不景気)は、失業率は上昇し、株価指数と地価は低下していることが多いです。様々な経済指標はバラバラに変化するのではなく、連動して動くことが多いです。連動しているということは、二つの指標間に因果関係や相関関係が考えられます。○○が上昇するときは、△△が減少し、□□が増加するという法則性を見つければ、経済の内部メカニズムを知ることができるとともに、将来の経済状態の予測を可能にします。経済学では、経済指標間の法則性を見つけることを目的の一つにしています。
経済の指標は絶対額で表現されますが、単位が億円、兆円ともなると、生活実感とは離れてしまっていて、ピンときません。しかし経済は動いていますから、絶対額よりも変化の方向性に注目します。これを把握するには、時系列で見るのです。グラフで見れば上がっているか下がっているか一目瞭然です。ただしこれは過去の変化で、将来の変化までは読み取れないことがほとんどです。別の捉え方として有効なのが、国際比較です。外国、通常は日本同様の先進経済国と比較するのです。大きいか小さいか、時間的トレンドを比較すれば、分かりやすくなります。ただし注意が必要なのは、これは相対比較なので、比較するものが基準を表しているわけではないことです。しかし国際比較は、日本の特徴というもを浮き上がらせます。
経済統計は、その絶対値よりも、その変化により注目されます。それは、経済は常に変化しており、変化が望ましい方向に向かっているかが、各経済主体にとって、家計であれば消費計画、企業であれば事業計画、政府であれば経済政策の立案に必要な情報だからです。変化の程度は、前期比増減率で表現されることが多いですが、長期間の統計値を見る場合は注意が必要です。前期に落ち込んだ場合は、今期の対前期比増減率が大きくなる傾向にあります。前期比増減率のグラフを見る場合は、あわせて、絶対値の時系列グラフも見ておきましょう。外国との比較の場合は、金額換算するときの為替の決め方、社会構造、統計の取り方の差異などがあり、単純比較には注意が必要です。
経済活動は、経済主体間の相互のやりとりで行われます。企業がモノやサービスを生産します。労働者は賃金を受け取ります。企業が生産したモノやサービスを、ある価格水準で企業が購入(投資)または家計が購入(消費)します。金融市場では、株式、金利、為替が動きます。企業に係る統計として、生産、労働、投資、家計に係る統計として、賃金、物価、消費、金融市場に係る統計として、株式、金利、為替があります。日本の統計について概観してみましょう。
国内総生産は、一定期間に生み出した生産物の価値を集計したものです。日本全体の経済活動が拡大しているかどうかが分かります。集計した金額で表したのが名目国内総生産です。これに物価変動の影響を除いたものが実質国内総生産で、こちらの方が「真の状態」を表しているとして注目されます。ただし、物価、給与、会社の売上等、経済活動は通常金額で認識されるので、名目国内総生産の方が生活実感に近いといわれます。
経済では名目値と実質値の両方を使います。経済の規模を図るのには金額(例えば円)を単位としますが、注目するのはどれだけの財やサービスを生産したかという量の方です。例えば1万円の商品が100個生産されたとします。生産額は100万円です。1年後、商品が値上がりして1.1万円になったとします。生産量が100個ならば生産額は110万円です。生産量が変わらなくても生産額は10%上昇します。経済活動でどれだけの財やサービスが生産されたかを見るには、生産物の価格の変化に影響されないよう補正が必要になります。そこで、生産額に対して物価上昇分を補正して生産量を表したのが実質国内総生産(実質GDP)です。
名目GDPと実質GDPの比率がGDPデフレーターです。GDPデフレーターは通常、-3~+3%ぐらいの値をとります。この値は、国内で生産される財やサービスの価格変化(インフレ率)を表します。消費者物価指数と並び、国内経済の物価動向を測る指標の一つです。
国内総生産の内訳は、消費、投資、政府支出、貿易収支(輸出-輸入)で構成されています。内訳をみれば、国内総生産の変化が、どの項目の変化でもたらされたのかが分かります。国内総生産(GDP)は、経済活動で生み出された価値を合計したものです。GDPはその内訳の合計(消費+投資+政府支出+貿易収支(輸出-輸入))となります。経済活動には波があり、GDPは時系列で見て変化していきます。その内訳も変化します。注目点は、個人消費のGDPに占める割合と、輸出入の割合です。民間投資の変化も重要です。個人消費はGDPに占める割合が最も高く、影響度ももっとも大きい項目です。また、その絶対額は、国民生活の豊かさを表す指標ともなります。輸出入は、その国の国際経済との関わりを表します。輸出はその国の生産力や経済成長と、輸入は、その国の景気動向や購買力を表します。民間投資は、時間的な変化が大きく、経済成長や景気の循環と深く関わっています。時間的へんかは、その国の経済成長の帝とや景気循環を、他国との比較は、その国の経済的発展段階や特長を見てとれます。
GDPは、国全体で生み出された生産物の価値です。生産物を人々が消費することで、豊かな生活をおくることができます。価値の恩恵を受けるのは一人ひとりの人間です。そこで一人当たりでGDPを評価すれば、より生活実感に近い数字が得られます。実質GDPを人口で割った、1人当たりのGDPが注目されます。
国民所得は、GDPから機械的摩耗と税金を引いたものです。機械的摩耗と税金を引くことで、より国民により生み出された富に近づきます。GDPは国内で生み出された富の指標ですが、国民の視点にたてば、海外から得られた富も国民の所得となります。海外投資が活発化するに連れて、海外からの所得、また海外への所得の流出も国民所得の計算で考慮する必要があります。そこで、それを考慮に含めた経済指標として、国民総生産(GNI)があります。国民総生産(GNI)=国内総生産+海外からの所得-海外へ流出する所得として計算されます。
国全体を一つの経済主体(例えば一つの会社)と捉えて、そこに外国から出入りするお金を一覧表にまとめたものです。項目としては、国がお金を受け取る項目として、輸出額、海外からの所得の受け取り、海外資本の換金、一方、国がお金を支払う項目として輸入額、海外への所得の移転、海外への資本投資などがあります。国際収支は、一国全体としてのお金の収支(家計簿のようなもの)であり、海外との経済関係の把握や、国際経済におけるその国の位置づけを見て取ることができます。
家計は、労働力を企業に提供し、賃金を受け取ります。賃金のうち一定部分が、企業が生み出すモノやサービスを購入し消費されます。 賃金のうち消費に回らなかった部分が貯蓄されます。貯蓄の蓄積が金融資産となります。購入物でも消費されず資産価値(換金価値)をもつものは、物的資産となります。不動産、自動車等が該当します。家計は現在所有する資産と現在及び将来の賃金収入見込みをもとに消費量を決めます。一般的には、資産と現在及び将来の賃金収入見込みの合計が増えれば消費額が増えます(資産効果)。 その際、家計にとって重要な情報は現在及び将来の賃金水準です。雇用の安定は前提となります。このため、賃金水準、資産価格動向、失業率は消費に影響を与えます。 貯蓄は金融機関を通じて企業活動に投資されます。このため、貯蓄率が高いと企業投資が促進され将来経済に貢献する可能性があります。一方、その分消費が抑えられるので、現在の企業活動を抑制することにもなります。両者の影響は、貯蓄を原資とした投資の効率と、現在の企業活動の収益を原資とした投資の効率の大きさによります。 高い賃金を受け取るには、労働スキルの向上が重要です。労働スキルは労働生産性の向上を通じて企業の生産活動に貢献します。 耐久財の消費は、製品の魅力度、価格、所有品の寿命等の影響を受け消費量に波が出やすい傾向にあります。 家計の状態を表す経済指標としては以下のものがあります。
家計は消費者であるので、家計の状況といえば、消費の実態把握となります。毎月の消費支出総額の変化、食費や娯楽費などカテゴリー別の支出額の変化に注目します。消費はGDPの6割を占める項目であり、その変化がGDPに与える影響度は大きいものがあります。ただし、消費の性質として、生活に必要な消費は景気の変化に影響されないため、景気の循環との連動性は低く、長期的に経済成長をしているのであれば、消費も緩やかに増大する傾向にあります。収入に対してどれだけ支出に回ったかを示す消費性向は、収入が増えるほど小さくなる傾向にあります。その反対の計算で、収入に対する貯蓄の割合を貯蓄率といい、注目される指標です。経済理論では、貯蓄=投資となるため、貯蓄率の変化は、単に家計の状況変化を表すだけでなく、投資の変化、経済全体の変化を表します。個々の家計内の変化だけでなく、家計の数、消費者の数(人口)、年齢構成も、経済全体で集計された消費の大きさに影響します。
企業や政府の労働者も家計に属しています。つまり、すべての人に家計があります。家計の収入は、個々の人にとって一番経済を感じる情報かもしれません。家計調査月報には、収入、支出が記載されています。生活水準や消費動向を表す統計です。消費の内訳をみることで、消費市場では消費トレンドを捉えることができます。
消費支出を見る別の統計として、小売売上高があります。消費には、家賃支払い、教育、医療など様々ですが、モノの購入は消費の中でも大きなウエイトを占めています。小売売上高は、消費の勢いや景気動向を把握するのに重要な指標です。
価格によって消費者は、購入の判断をします。モノやサービスの平均的な水準を表す物価は、消費生活に大きく影響します。通常は物価が継続的に上昇するインフレの状態になりやすく、インフレの程度を把握することが、経済の安定に必要な情報となります。インフレの程度の計測によって、高インフレの状態にあれば、政府は様々な経済政策でインフレを抑えようとします。
物価には、家計の消費者がよく購入するモノやサービス(食料品や衣類等)の価格動向を指数化した消費者物価指数と、企業がよく購入するモノやサービス(原材料等)の価格動向を指数化した生産者物価指数があります。統計の解釈としては、物価指数の変化を対前年同月比で見るのが一般的です。先進国では、通常、-2% から +3% ぐらいの範囲の値をとります。
家計にとって賃金収入はフローですが、資産はストックです。家計の主な資産は、過去の預貯金の蓄積である金融資産と不動産です。不動産と株式の金融資産は、時価が変化するため、資産価格の動きは、家計の資産の変化、そして消費の変化をもたらします。
企業は、モノやサービスを生産し家計に提供します。生産には、家計が提供する労働力、生産設備等の資本が必要です。製品の場合は、原材料も必要となります。それらは、販売による収入、借り入れ、投資家からの投資で集めた資金を使い購入されます。言い換えると、企業は販売収入、借り入れ、投資家からの投資を原資に原材料、資本、労働力を購入し、モノやサービスを生産し消費者に提供しています。 企業は生産要素を調達した後でモノやサービスを販売し費用を回収するので見込み生産となり、業績の向上悪化の波、ひいては経済状況の波を生じやすいと言えます。 設備投資は、消費者同様、企業によるモノやサービスの購入であり、その大小は経済全体に大きく影響します。 設備投資や研究開発、生産活動を通じた学習で技術が蓄積し、生産効率の向上やモノやサービスのイノベーションを起こし、経済成長の原動力となります。 企業によって重要な情報は、家計の消費動向、金利等の資金調達コスト、原材料価格・人件費水準等です。 企業の状態を表す経済指標としては以下のものがあります。
鉱工業生産指数は、国内で生産されたモノの量を指数化したものです。数字の変化で生産が拡大しているか縮小しているかが分かります。日本は製造業が基幹産業であり、この指数の動きは国内経済の状況を表す重要な指標となります。生産と販売のタイミングは必ずしも一致しているわけではありません。生産が拡大していれば、その分販売が拡大していることが予想され、GDPの拡大を示唆させます。設備稼働率は、既存の設備がどれだけ生産活動に活用されているかを示す指標です。設備稼働率が高いとフル生産に近い状態で、逆に低いと既存設備が余り遊休資源化していることを意味します。設備稼働率は、生産活動の程度を表すだけでなく、生産設備の過不足の程度も示しています。設備稼働率が高いと新規投資が促されます。一方低いと過剰設備を抱えていることになり、投資の抑制要因となります。
製造業では、製造後、一旦保管(在庫)して販売されます。生産の時系列と販売の時系列にずれがあり、ずれを吸収するために在庫が機能します。生産より販売が少ないときは在庫が増大し、生産より販売が多いときは在庫が減少します。在庫の時間的増減を見れば、生産と販売の時間的変化を捉えることができます。個々の企業の在庫の変化を国全体で集計したものが在庫指数です。在庫指数は、景気の循環を見るのに重要な指標です。一般に、景気回復期には販売が回復し積み上がった在庫が減るので、在庫指数は低下します。景気後退期には販売が減り在庫が増大するので、在庫指数は上昇します。景気の動きに合わせて在庫指数は増減します。
企業は、事業の拡張、生産力の増強、既存設備の更新のため、設備投資を行います。投資はGDPの構成要素で、投資の大小がそのままGDPに影響します。投資は企業の事業期待が高まると増加し逆の場合減少する傾向にあります。景気の影響を強く受けます。また、投資の変化がGDPや景気に大きな影響を与えます。投資によって、生産量が増大するだけでなく、最新設備が導入されることで、生産性(より高付加価値のモノをより低いコストでより多く生産可能であること)も向上します。投資は消費とは異なり、投資の増大はその時点のGDPを押し上げるだけでなく、その時点以降の生産活動にプラスに働きます。
投資は、企業が行うモノやサービスの購入であり、その生産者の業績に影響するだけでなく、投資によって、将来の企業活動の拡大、経済全体の成長に影響します。民間設備投資は、国内総生産を計算する構成要素の一つで、国内総生産の内訳として投資の変化をみることができます。国内総生産の他の構成要素である消費や政府支出とは異なり、変動が大きく、景気の循環と連動しています。民間設備投資の変化が、国内総生産、つまり日本経済に変動を与えているのです。
投資の効果は、将来の生産性を向上させることです。資本ストックは、経済全体の過去の投資の蓄積を表します。経済理論では、資本ストックと労働投入の量によって付加価値(国内総生産)が生み出されるとしています。資本ストックの増大は、経済成長の条件とも言えます。
企業は定期的に業績発表があります。業績発表によって、個々の企業の売上や利益の変化が把握できるだけでなく、大手企業の業績を見れば、企業全体の業績動向を推測できます。個々の企業データだけでなく、日本銀行による企業景況感調査「日銀短観」や政府統計「法人企業統計」も参考になります。企業業績は株価に反映されます。株価指数は、企業全体の業績を反映したものといえます。
生産者物価指数は、消費者ではなく企業向けに販売するモノやサービスの価格を指数化したものです。経済活動の中で重要な位置づけを占める企業間取引の価格動向を示します。特徴としては、消費者物価指数より景気動向に敏感に反応して大きく変化することです。企業側の景気動向を探るのに重要な指標です。
労働の統計は、企業の雇用状況を示すために企業の統計です。また、雇用によって家計は消費のための収入を得ているので、家計の統計でもあります。家計は、労働の対価として賃金を受け取り、それで消費を行います。雇用の情報は、家計にとって大きな関心事です。労働に関する経済統計には、人口、生産年齢人口、労働人口、就業者数、雇用者数、失業率、有効求人倍率、雇用者報酬など様々なものがあります。いづれの統計でも経済学では、絶対数よりも時間的変化が注目されます。
人口は、国の経済力を表す基本データです。人口は、そのまま消費者数と解釈でき、人口の増減は、消費者の需要の増減、消費量の増減と直接結びつきます。経済的には、人口はゆるやかに増加する場合は、安定成長が期待できます。急激な増加は、雇用の吸収力が追い付かず、貧困の増大となりやすく、経済的には問題となります。発展途上国にあてはまる例が多いです。一方、人口増加の停滞や減少は、消費需要の停滞となり、経済成長を妨げる要因となります。生産年齢人口は、生産活動に従事可能な人の数を表し、日本では、15歳から65歳までの男女の人口を意味します。単純に年齢で区切った数を表しますので、労働に従事しているかや労働する意思があるかは問いません。人口の変化だけでなく、人口の年齢構成の変化に影響されます。
労働する意思のある人(就業者数+失業者数)の数を労働人口と呼びます。潜在的な労働投入量です。労働人口は、人口や生産年齢人口に影響されますが、むしろ、労働に対する人々の考え方や、環境、景気動向に影響され増減します。生産年齢人口と労働人口の比率を、労働参加率といいます。
就業者数は、労働に実際に従事している人の数で、自営業者数と雇用者数の合計です。景気に影響されます。雇用者数はより景気に影響される数ですので、経済統計として注目されます。雇用は、企業活動が拡大すれば人を雇い、数が増加しますし、企業活動が停滞すれば人件費の削減によって雇用が減ります。雇用者の増減は、外国ほど屈伸的ではありませんが、雇用者数の変化は、景気の変化を表しているといえます。雇用者数は賃金を受け取っている人の数でもありますから、家計収入や消費動向にも影響します。
失業率は、労働人口と失業者数の比率です。失業率は、経済問題となるだけでなく、政治や社会問題となりやすく、景気を表す指標であると同時に経済政策が注目する指標です。失業率も景気の状態を見る統計の一つです。景気後退期には失業率が高まります。失業率は過去との比較は意味がありますが、外国との比較の場合、国で異なる雇用事情や統計の取り方などで単純比較はできません。失業率は、分子に「求職しているが職に赴けない人」がくるので、求職者の変化によって失業率が変化するので注意します。有効求人倍率は、就業希望者数と企業の求人数の比率です。就業希望者の変化より企業の求人数の変化が激しいので、人材に対する企業側の需要の程度を表す指標です。景気に影響します。
報酬額の変化は景気の影響を受けます。賃金の変化は家計収入の変化を通じて消費に変化をもたらします。消費は経済全体(GDP)に影響を与えます。
市場で時々刻々と価格形成される金融市場の数値は、経済の今の状態をリアルタイムで教えてくれます。株価指数は、景気の動向に半年ぐらい先行して動くといわれます。株価が大きく下落しているようなら、その後の経済状況について景気後退を予想しているということです。
為替の変化は、輸出と輸入に影響します。円が外国の通貨に対して値上がりすると、輸入品は安くなり輸入の増大に、輸出品は高くなり輸出が抑えられます。日本は原材料やエネルギーを輸入しています。輸出は主に工業製品です。どちらも日本経済の中心的産業に係ることで、為替の動きによって、国内の生産活動が動き、景気を左右する原因となります。
金融市場での金利の動きは、それがそのまま、企業にとっては貸出金利が、家計にとっては預金金利に影響します。一般に、金利が高くなると、貸し出しが抑制され、やがて景気を抑える力になります。逆に金利が低下すれば、貸し出しが促進され、投資やお金の流れが増加し、景気を刺激します。
投資の性質として、金利との関係があります。投資は借り入れで行うことが多く、借入コストである金利が高くなると投資が抑制されます。逆に金利が下がると投資が促進されます。理論的にはこうなるのですが、現実は必ずしも関係が明確とはなりません。一般に好景気のときに金利が高くなり投資が抑制されますが、同時に、景気が良いと事業期待が高まり投資の拡大要因ともなります。一方、不景気のときは金利が低くなり投資を刺激しますが、事業期待は低下し、投資の抑制要因となります。どちらも両者の要因が反対方向に加わり、投資と金利の関係は明確にはなりません。
経済主体として見た政府は、自ら経済活動を行うことで、国の経済全体を望ましい状態にコントロールする役割を担っています。政府の機能としては、①政府支出による企業への需要創出機能、②租税によって家計や企業から税金を徴収し、政府支出によって家計や企業に還元する再配分機能、③経済の安定的成長と構造改革を目的とした経済政策によって、家計や企業の経済活動に影響を与える機能、などです。
政府の重要な機能の一つが、租税です。政府支出を行うために家計と企業から税金を徴収します。家計と企業のどこからどの程度税金を徴収するかは、経済の制御手段の一つです。徴収される側にとっては、一般に税金は少ないほどよいと考えますが、税収が少ないと政府支出による国の運営、行政サービス、経済へのコントロールが低下してしまいます。税収と支出は一体の関係であり、税収額が増やせなくても、どこからどの程度税金を徴収するかによって経済を制御することが可能です。
経済活動は、財・サービスの生産と消費で家計と企業が中心となって行っていますが、その活動を制御し、国全体として望ましい状態を維持することは、政府の重要な役割です。望ましい状態を維持することとは、①公平・公正な競争環境の維持、②好景気不景気の波を抑えた安定的な経済成長、③低失業率、低インフレの維持、④国民生活の向上、社会資本の整備を目的とした公共投資、⑤家計や企業の経済活動の支援、などです。政府は、経済政策によって、家計と企業の経済活動を支援したり、場合によっては抑制したりします。具体的な政策手段としては、①財政政策:企業が生産する財やサービスを政府が購入(政府支出)することで需要を生み出す機能。特定分野への支出割合を増減させることで、分野ごとの活性化・抑制化を行う機能、②金融政策:世の中への通貨供給量の増減、金利の増減を行うことで、消費者物価や企業投資の刺激・抑制を行う機能、③産業政策:特定分野への補助金、低利融資、出資、経済規制の緩和を通じて、産業を刺激し、経済成長につなげる機能、などです。
経済状態は各種の統計から読み取ることができますが、統計で得られる経済指標はそれぞれバラバラに動くのでしょうか。経済指標間には、因果関係や相関関係があるといわれています。この関係が分かれば、なぜそのような動きをするのかの説明が可能となります。また、計測できない経済状態の推定や、現在の値を基に将来の状態を予測することができます。このような分析をするために、経済理論に基づき経済をモデル化し、その解析結果と実測経済データとを突き合わせ、モデルを検証し、真実を説明するモデルの構築に繋げます。経済理論は、仮説(モデル立案)、分析、実測データでの検証を繰り返しながら、経済状態を説明するモデルを追い求めます。経済理論は、その国の経済活動に働く普遍的原理を見つけ出すことです。
経済理論では、現実の複雑な経済活動から本質的な部分だけ残して単純化(モデル化)した上で、そのモデル内に潜むメカニズムを解き明かします。通常、モデル化には数式が使われます。数式で表現することで、現実世界の単純化と厳密化を図ることができます。一旦、数式で表現できれば、あとは数学計算によって、経済変数間の関係や経済変数の値の計算を行うことができ、ある経済変数を動かすと別の経済変数がどう動くかの予測分析(シミュレーション)が可能となります。それにより、ある経済政策を行えば結果、経済はこうなるという政策分析から、現実経済に対する政策提言を行えます。個々の経済活動は様々ですが、様々な経済活動に共通する性質に注目して単純化して理論構築するので、経済理論での分析結果は様々な現実の経済活動に適応可能(汎用性)です。このように、経済理論は、現実世界の経済を経済理論で分析し、その結果を再び現実世界の経済をより良い方向を導くことができます。
経済の分析には、経済理論がツールとして役立ちます。分析ツールは、経済モデル、需要と供給、合理的行動の3つです。経済モデルは、複数の経済指標を変数として数式に組み込んだものです。経済指標間の関係を数式にしたので表現が明快です。例えば、Y=2X+5のようなものです。需要と供給は、経済活動にはすべて出し手と受け手があり、両者が一致する水準で経済取引が成立するという考え方です。モノやサービスの需要と供給は、需要曲線と供給曲線の交点が実現する値です。通常、交点だけが観測可能なもので、交点の動きから需要と供給の動きを推測します。合理的行動とは、経済は人間が行うもので個々人に注目すれば予測不可能であっても、集団の平均的性質では、合理性に基づく一定のパターン化した行動をするものだという仮説に立ち、損得計算に基づいて行動する人間が経済の動きにどう反応するかで因果関係を読み取る考え方です。
経済指標間の関係を見つけようとするときには、因果関係のあるなし、相関関係のあるなしを判定します。ある指標の変化が原因となって別の指標が必ず変化するとき、因果関係が存在します。これは、指標間でその指標の経済規模が大きく異なる場合、大きな規模の指標変化によって、小さな規模の指標が影響を受けること、2つの指標間に時間的な差異があることなどです。ある指標の変化と別の指標の変化が同時に起こり、どちらが原因でどちらが結果か判定できないとき、相関関係にあるとします。因果関係と相関関係を区別することが重要です。
経済学では、企業、投資家、消費者など経済活動における意思決定主体は、合理的行動をとると仮定されます。合理的行動とは、与えられた条件の下で意思決定を行う際に、全ての選択肢を検討し、自己の利益を最大化する選択肢を選ぶというものです。人間の行動は自然科学の法則とは異なり、常に法則的なルールに基づいて意思決定しているわけではありません。その時々の感情によって行動が定まる場合もあります。つまり人間の行動は予測できません。しかし、「合理的に意思決定する」という仮定により、どのような意思決定がなされるかを計算で導出できます。経済主体の意思決定を理論に基づいて分析することが可能となります。個々人の人間は、その個性により、与えられた条件が同じ下でも意思決定が異なることはあります。しかし、人間集団の行動を統計的にとらえるならば、個々人の個人差は相殺され、平均的には合理的な行動に収れんすると仮定できます。よって、個人個人に注目するのではなく、全体の傾向を分析することを目的とするならば、合理的な意思決定をとると仮定してさしつかえありません。この仮定によって、経済学では様々な数式モデルが考案され、数式上で利益を最大化する意思決定変数を求めることで、経済行動を予測分析する手法が確立しました。
経済活動とはまさに、モノやサービスを生産しそれを消費することです。消費しないで投資として更なる生産のために利用される場合もあります。モノやサービスの生産者は売り手として、消費や投資を考えている買い手と市場でモノやサービスを取引します。買い手が需要し、その需要に応えるように売り手が供給します。買い手の需要量、売り手の供給量で、取引される量や価格が決まります。買い手が1000円で10個買いたい、売り手が1000円で10個売りたいと考えているときに、価格1000円、生産販売量10個の取引が成立します。売り手も買い手も個々人の行動が市場での価格形成に影響しない市場を考えます。通常、大部分のモノやサービスの市場が該当します。市場価格を所与とすると、売り手である生産者企業は、価格が高くなるほどたくさん生産販売したくなります。一方、買い手である消費者や企業は、予算制約があり、価格が高いほど、買わないか少ししか買いません。
供給も需要も価格の関数と考えることができます。これを式で表すとQ1 = S(P)Q2 = D(P)となります。売買とは売り手と買い手で取引価格と取引数量が一致するときのみ、成立します。これはグラフで表すと分かりやすくなります。横軸に数量を、縦軸に価格を取り、供給関数と需要関数を描きます。グラフの交点が存在する場合は、その点が売り手と買い手の希望が一致するところです。交点が市場価格、生産販売数量を表します。需要が増大または縮小(需要関数のグラフが左右に移動)すると、交点は移動します。同様に、供給が増大または縮小(供給関数のグラフが左右に移動)しても、交点は移動します。需要と供給の相互作用で価格や数量が決定されるのです。これは均衡点と呼ばれます。
労働者の雇用と賃金も需要と供給で捉えることができます。雇用者数(量)を横軸に、賃金(価格)を縦軸に、家計の労働供給量と企業の労働需要量をそれぞれ賃金の関数でグラフを描きます。労働供給量は、賃金が高くなるほど大きくなります。一方、労働需要は、賃金が高くなるほど小さくなります。グラフの交点が、実現する賃金水準と雇用量です。
お金をモノと考えれば、お金についても需要と供給を考えることができます。お金の供給は貸し手、お金の需要は借り手です。お金の需要は、経済規模が上がれば増えると考えるのは自然です。借り手の資金需要が高まれば、お金を借りる「価格」である金利が上昇します。また金利が上がれば需要が減ると考えるのも自然です。一方供給側では、経済活動が活発になれば家計や企業が受け取るお金が増え、金融投資への供給が増えます。金利が上がれば供給が増えると考えるのも自然です。貸し手の持つ資金がだぶつけば、資金供給が増え、金利は低下します。需要曲線、供給曲線の交点で市場金利、貸出量が決まります。株式市場もこのメカニズムが働きます。株式の売り手の供給曲線と買い手の需要曲線は、時々刻々と変化します。交点の位置も曲線の変化につれて変化します。
貨幣の量そのものにも需要と供給による均衡があります。貨幣は中央銀行が供給します。需要者は貨幣を使う企業や家計です。横軸に貨幣の量を、縦軸に金利をとり、供給関数と需要関数を描きます。中央銀行は政策によって供給量を調節するので、金利に対しては定数Mとなり、座標上では垂直線です。需要者である企業や家計は、金利が低いほど、貨幣を利用する需要が高まります。これはL(r,Y)と定式化できます。 L(r,Y) = Mが均衡点です。これはrとYの関係式でもあり、Yの上昇は、rの上昇を伴うことを示しています。この関係を横軸にYを、縦軸にrを取り、LMグラフとして描きます。一方、Y = C(Y) + S(Y) = C(Y) + I(r) + G + EX - IM(Y)でrとYの関係に注目すると、rが低下するほど均衡値であるYが増大します。これをISグラフとして、座標に書き込みます。ISグラフとLMグラフは一か所で交わります。この均衡点が、実現する金利rと生産水準Yとなります。
経済活動の2つの主体である売り手と買い手のそれぞれの意思決定曲線の交点が市場で実現する価格や数量であるとする、需要と供給の考え方は、商品市場、金融市場、労働市場など多くの市場の動きの分析ツールとなります。このモデルに基づけば、実際に実現する市場取引は均衡点での価格と取引量であり、実際の市場で観測されるのも、取引成立時の価格と数量です。均衡点は実測できても、その均衡点をもたらす需要曲線や供給曲線は観測できません。価格や数量が変化したときは、需要曲線や供給曲線が変化したことを推測できますが、両曲線とも変化するとすると、均衡点の動きを、需要曲線と供給曲線それぞれの動きに分解することは容易ではありません。片方の曲線が固定であるとの前提に立てば、均衡点の動きは、もう片方の曲線の形状に沿っていることになります。実際は、このような前提はおけません。よって観測不可能な需要曲線や供給曲線を使ったモデル化や分析には限界があります。
需要と供給の関係は、個々のモノやサービスだけでなく、世の中の様々なモノやサービスを集めて一つのものと見立てた場合でも考えることができます。世の中の様々なモノやサービスの需要と供給を一つのものの集計需要と集計供給で捉えます。様々なモノやサービスの価格が平均的に上昇すれば、消費者の需要は低下します。一方、様々なモノやサービスの価格が平均的に下落すれば、生産者の供給は低下します。様々なモノやサービスの平均価格水準(物価水準)に対して需要曲線と供給曲線を描けば、その交点が、実際に出現する平均価格水準(物価水準)と生産消費量です。集計的に見た生産消費量は、GDPと考えることができ、物価水準とGDPの関係を表現しています。
需要や供給は絶えず変化しています。需要と供給の均衡点が価格と生産販売量となるので、集計需要と集計供給の交点の変化がインフレ率や生産水準の変化をもたらします。生産量も価格も屈伸的であれば、交点の移動がそのまま新たな均衡点となります。しかし、生産量と価格のどちらかが硬直的であると考えるならば、変化の結果も異なってきます。価格が硬直的と仮定すると、需要と供給の変化は、価格よりも生産量を変化させます。逆に生産量が硬直的と仮定すると、需要と供給の変化は、価格を変化させます。この二つの見方は、経済政策の効果について異なる見解を生み出します。財政出動によって政府側で新規需要を生み出し、集計的需要曲線を上方にシフトさせたとします。価格が硬直的と考える見方では、インフレにはならず、生産量が増えて経済は拡大することになります。生産量が硬直的と考える見方では、生産量はあまり増えず経済は拡大しないままインフレになることになります。
経済のモデル化の最初の一歩は、国内総生産に関するものです。消費関数は、可処分所得(国内総生産から租税分を控除したもの)の一定割合が消費に回るとするものです。過去の統計分析で、だいたい成り立つことが分かっています。(自然科学とは異なり、経済学では人間の活動をモデル化するため、統計の定義の恣意性、統計データの誤差、そもそも人間自体が自然法則のように規則的に行動するわけではないことから、モデル(仮説)が実測データと矛盾しなければ有効な仮説として解釈される。)式で表すと、C = a(Y - T) + cここでC:消費、Y:国内総生産、T:租税、a:消費係数、c:定数項です。「輸入関数」は、輸入量が経済規模に比例するとの仮説に基づいた定式化です。式で表すと、IN = b(Y - T) + cここでIN:輸入金額、Y:国内総生産、b:輸入係数です。企業投資は、金利水準に応じて変化します。投資は金利の関数として表せます。これらを国内総生産の定義式Y = C + I + G + EX -IMに代入すると、Y = C(Y) + I(r) + G + EX - IM(Y)となります。一方、Y = C(Y) + S(Y)より、貿易収支に関するEX - IM(Y) = S(Y) - I(r) -Gの関係が導かれます。
Y = C + I + G + FX - FI C = c Y S = Y - C I = I(r) L = L(Y,r) L = M K = M / Y Kt = Kt-1 + It - Dt
マクロ経済の公式は恒等式であり、右辺、左辺のどちらかが原因で他方が結果を表しているのではありません。この例でいえば、貿易収支が黒字となると貯蓄と国内投資の差額が広がるとか、貯蓄より国内投資が少なくなると貿易黒字が拡大するとかは意味しません。貯蓄、国内投資、輸出、輸入がそれぞれ計測されて、公式から、左辺と右辺が一致するのです。
国内総生産は、需要側、供給側、分配側それぞれ以下の公式で表されます。同じもの(国内の経済活動で生み出された経済的価値)の内訳を異なる視点で見ているもので値は同じです。まず、支出項目で見たものは、Y = C + I + G + EM - IMです。所得面で見たものは、Y = R + W + Tとなります。消費Cは国内経済規模で決まるとすると、C(Y)と表せます。投資は金利の影響を受け金利の関数I(r)、輸出はEMは為替レートeで、輸入IMは、為替レートと国内経済規模に応じて決まるとすると、EM(e)、IM(Y,e)となります。式は、Y = C(Y) + I(r) + G + EM(e) - IM(Y,e)となります。Yに注目して式を解けば、式を満たすYの水準が求まります。貯蓄Sは、Y - C(Y)であり、S - I(r) = G + EM(e) - IM(Y,e)となります。EM(e) - IM(Y,e)は貿易収支であり、貯蓄と国内投資の差額が、貿易収支となります。
モデルでは、様々な変数が関係式で組み合わさっています。関係式は各変数の制約条件ともなっています。変数のうち、他の変数が定まったとき、関係式により計算され値が決まるものを内生変数と言います。それに対して、他の変数とは無関係に数値が定まる変数を外生変数と言います。何が内生変数で何が外生変数かは始めから決まっているわけではなく、変数が硬直的なもの(他の変数から影響を受けにくいもの)を外生変数、屈伸的なものを内生変数と考えることができます。前述したマクロモデルでは、一般に、輸出、投資、為替が外生変数、所得、輸入が内生変数と解釈されます。輸出つまり海外需要、投資を規定する金利、為替レートを所与として与えたとき、モデルの計算から所得、輸入が決定されます。所得は、好景気、不景気で変動しますが、そのきっかけは、外生変数である輸出つまり海外需要や為替レートでもたらされることになります。しかし、実際のところ、所得や投資が変化すれば、それにつれて輸出や為替レートも変化することはあり得ます。何が内生変数で何が外生変数と考えるかで、経済の因果関係(ある経済指標の変化によって別の経済指標が変化する。)の解釈に違いがでてきます。
マクロ経済のモデル化と分析は、経済政策の立案とその効果の分析に用いられます。経済は、安定持続的に成長し続けることが望ましいが、現実の経済では、過去の歴史を見ても、安定持続的に成長し続けることができず、好景気(経済成長期)と景気後退期(成長停滞期)を繰り返しています。現実の経済では、経済を成長させることができない、社会問題となりうるインフレや失業を抑制できない、経済が成長過程にあっても経済の富の分配に関して公平性と平等性に問題がある、貧富の差や貧困の拡大など経済問題が起きてしまいます。政府は、経済政策を行い、現実の経済に働きかけることによって、望ましい状態に制御することを試みます。経済的に望ましい状態には様々な議論がありますが、一般的に合意されていることとして、①安定持続的な成長、②低インフレ、③低失業率の3つを挙げることができます。
成長は富を増やし、富の分配によって個人の富も増える可能性があります。生産の拡大は働き手を増やし、失業率の低下、賃金の上昇によって消費を増やします。消費の拡大は人々の効用を増加させます。経済の高成長も持続性があるなら望ましいが、経済の過熱等反動による景気後退の可能性が増すので、緩やかで安定持続的な成長の方が望まれます。
インフレは物の値段が上がることですが、見方を変えれば、物に対してお金の価値が下がることを意味します。通貨は政府が発行しており、通貨自体は効用をもたらしません。通貨は、その信用によって経済活動での利用が可能となっています。高インフレは、通貨の価値を下げるだけでなく、価格の大きな変動は、価格によって取り決められた経済取引に混乱をもたらす原因となるので、低インフレが望まれます。
雇用は、家計の収入に直結し、国民生活への影響が大きく、国民の関心も高い項目です。雇用の状況を表す指標で最も代表的なのは失業率です。高失業率は、家計収入の落ち込みと消費の抑制を招くだけでなく、政府への不満、社会不安の増大をも招きます。
経済政策は、政府が自国の経済状態を望ましい状態に近づけるために、政府の資源や権限を利用して経済に働きかける行為です。一般的には、経済には好景気不景気の循環が生じるため、過熱や停滞状態を防ごうと、不景気時には経済刺激策を、好景気時には抑制策をとります。経済政策の目的には以下のものがあります。
経済政策は政府の資源(国家予算、中央銀行の資金など)や権限(許認可制度、税制、法律など)を利用して経済に働きかける行為であり、主には財政政策、金融政策、規制制度改革の3つがあります。
財政政策は、政府支出を変化させ、景気を刺激したり抑制したりすることです。政府支出とは、政府の発注で企業が生産するモノやサービスを購入することですから、主な支出先である企業や、企業の支払う賃金を通じて家計にお金が渡り、所得を増やした企業や家計が投資や消費を増大させれば、さらに経済を刺激します。政府支出はGDPの一項目です。政府支出の増大は、直接、国の生産量の増大に繋がるだけでなく、波及効果で、投資や消費も刺激し、GDPを政府支出増分以上に増加させます。これを乗数効果といいます。不景気時には、財政政策として政府支出を増やし、景気を刺激します。一方、政府支出を減らせば、民間部門の所得が減ります。経済の過熱時には、財政政策で政府支出を減らし、過熱を抑えます。景気刺激への即効性や雇用維持の点では、公共投資が活用されます。支出を増やすこと以外に経済を刺激するのは、減税です。減税することで、企業や家計に残るお金(可処分所得等)が増え、投資や消費を増加させます。
財政政策を行うと、以下の効果が期待できます。
政府が経済政策で100万円を支出するとします。100万円の需要が発生したのですから、その需要に応えようと民間部門は100万円生産します。ここで経済効果は100万円です。政府から民間部門が受け取った100万円は、そのまま「タンス預金」されれば、効果は100万円で終わりです。しかし、この収入(100万円)を使って、消費や投資が行われれば、その部分の需要が発生し、生産が行われ一定の生産高が計上されます。更にその代金を受け取った民間部門は、代金の一部を消費や投資に回しますから、さらに需要刺激効果は、多方面に伝搬します。収入に対する消費・投資額の割合を0.9とすれば、総波及効果は、初期値100万円、公比0.9の無限級数の和になります。これ乗数といい、通常1~3の値です。政府支出は税金で徴収するものですから、民間から100万円を吸い上げて政府支出で民間所得が100万円増えても効果があるとはいえません。しかし乗数効果が働く場合、100万円税金で徴収し、政府支出を100万円増やし、乗数効果で国の所得がが200万円増えれば、経済を刺激したことになります。
政府支出は、増大すれば、GDPの定義にもあるように直接GDPを大きくするだけでなく、乗数効果によって、支出額以上にGDPに影響します。よって、過去、経済が不景気のときは積極的な財政支出が行われました。財政政策は、不景気時に支出拡大を、好景気時に支出削減をすることによって、景気の変動を抑えるものです。しかし実際は、いったん財政支出を拡大すると、景気が好転しても、ここで支出を減らせばまた景気後退が起きるとの懸念から支出が減りにくく、好景気時には税収も増えることから、好景気時にも支出が削減されることなく、不景気になるごとに更に支出を増大させる結果となりました。また先進国など経済が低成長の国は、低成長状態を脱却しようと政府支出を増大させていきました。経済政策としての政府支出は、乗数効果が拠りどころとなっていましたが、乗数効果は際限なく得られるわけでなく、乗数自体が低下し、経済成長への効果は弱まっていきました。その結果、収入に対して過剰な支出が常態化し、財政危機が懸念されるようになってきています。財政政策の問題点は、理屈上は不景気時に支出拡大を、好景気時に支出削減をすることとなっていても、税収は不景気時に落ち込み、好景気時に増加するため、選挙で政策の評価を受ける民主主義国家では、好景気時でも支出を減らすことができず、予想外の不景気時(不景気は通常予想外に起きる)に支出が拡大するだけで、累積的に赤字が増大することです。経済学においても、財政に頼った経済政策は、財政赤字を膨らませるだけでなく、経済政策てしても効果がないと主張する学説も多く生まれました。その一つは、経済主体(家計、企業)は、現在の状況だけでなく将来予想される状況を織り込んで行動するというものです。借金をして財政拡大をすれば、将来は借金を埋め合わせるため増税するか財政縮小するはずだと予想すれば、今の財政拡大は投資や消費を刺激しないというものです。
低成長の続く先進国では、財政政策による景気テコ入れが常態化した結果、多額の財政赤字を抱え込むようになりました。また途上国でも、経済を成長させようと収入以上に支出を膨らませたため、世界全体でも財政赤字となる国が多くなりました。支出削減による財政の健全化が必要ですが、支出を削減すると、直接GDPを減少させるだけでなく、負の乗数効果で経済を停滞させることになります。経済が停滞すれば、税収も少なくなるので、当初の目的である財政の健全化にも疑問符がつきます。財政健全化は長期的には経済の安定成長に必要となりますが、急激に支出削減を行うと経済にマイナスです。経済を成長させることと財政を健全化させること、短期的にはどちらかの選択となります。財政規律論者は、財政が健全化すれば、経済の安定が図られ、将来の不景気時の財政支出が容易となり、結果的に経済成長につながると主張し、一方、経済成長論者は、経済の成長を進めれば、税収が増え、結果として財政の健全化が図られると主張します。財政の健全化を図りながら経済を成長させることと、経済学ではまだ有効な方策を見つけられないでいます。
金融政策は、中央銀行が行う政策で、主に市場金利の調節、通貨供給量の調整、銀行の規制、為替介入などです。銀行の規制は、規制を強化すれば貸し出しが抑えられ経済過熱の防止になります。為替介入は、為替の動きを制御して急激な為替変動を防ぎます。
一番の政策は、市場金利の調節です。金融機関が資金を貸借する市場(市場といっても物理的実体はなく、金融機関をつなぐ情報システム上でのこと)に介入し、短期金利をコントロールすることです。市場金利には短期から長期までありますが、短期金利と長期金利はバラバラに動くのではなく、短期金利を制御すれば間接的に長期金利も誘導できます。金利が下がると貸し出しが容易になり、貸し出されたお金によって企業の投資、消費者の消費が増加します。つまり景気を刺激します。反対に金利が上がると貸し出しが抑制され、投資と消費が減少し景気を抑制します。経済の安定成長には、景気の過度な上下動を抑制し、物価も安定させなければなりません。中央銀行は、景気の安定、雇用の安定、物価の安定を目的に金融政策を実施します。ただし、景気、雇用、物価のどれを重視するかは国によって異なります。不景気時には金利を低下させ景気を刺激し、好景気時には金利を上げ景気の過熱を防ぎます。金利政策の問題点は、引き締め(利上げ)の効果は大きいが、緩和(利下げ)の効果は弱いことである。また、投資や資金の流動性は、金利の絶対値(リターン)だけでなく、リスクの影響も受ける。リスクが変動する環境下では、金利の変化の効果は発揮されない。
従来は市場金利の調節が金融政策の中心でした。金利はゼロ以下にはできませんので、金利がゼロ近辺まで下がると、これ以上金利の低下による経済刺激はできません。そこで次の段階として通貨供給量の調整が金融政策として重要視されるようになってきました。量的緩和と呼ばれるもので、金融機関に低利で長期資金を貸し付けたり、金融機関が所有する国債を購入したりして、金融機関側にお金を供給します。金融機関ではそのお金を企業への貸し出しを通じて経済にお金が回るようになり、景気が刺激されます。また、経済に出回るお金を増やすことは、モノや労働の量に対してお金の量が増え、モノや労働に対して相対的にお金の価値が下がることを意味し、インフレを起こす可能性があります。
通常は政策金利と呼ばれる短期金利を銀行間市場で誘導することで、短期金利、それに連動する長期金利、貸出金利を望ましい方向に誘導しますが、政策金利がゼロ近辺になると、これ以上は金利の低め誘導ができません。先進国では現在、政策金利がゼロ近辺となっています。金利は残存期間が長くなるにつれて上昇する傾向にあります。長期金利を更に引き下げるには、ゼロ近辺の政策金利ではなく、国債の中長期金利に直接働きかけて、金利低下を誘導します。具体的には、中央銀行が銀行間市場で国債を大量購入して国債価格を高く導きます。国債価格が高くなるほど、金利は低下します。「購入する」とは、市場から国債を吸収し中央銀行が発行する現金を市場に供給することです。これは、市場に出回る現金を増やすことであり、量的緩和と呼ばれます。量的緩和の効果は、①長期金利の引き下げによる投資の刺激、②現金の流通量の増大によるインフレ誘導、為替の下落があります。日本では、経済低迷、デフレ、円高が続いており、量的緩和が政策の選択肢として有効であるといえます。金融政策は、金利を制御する政策が中心でしたが、量的緩和により、貨幣供給量を制御する政策も加わりました。どちらも、経済成長、物価指数、為替レートに影響を与えるものです。どちらも貨幣の価値を上げ下げする政策といえます。 量的緩和は、流動性の低い資産(国債等)を市場から吸収し、流動性の高い資産(現金等)を市場に供給する政策といえます。金利の低下も市場での流動性供給といえますから、流動性を制御することが、金融政策となります。
中央銀行は、通貨を管理しています。現金は、紙幣と硬貨の発行高を把握しています。現金以外の「現金」(預金、貯金等)は金融機関を通じて量を把握しています。これはマネーストックと呼ばれ、世の中に出回っている通貨の量を管理すれば、景気動向やインフレ動向を予測できます。通貨の量と名目GDPを比較すると、正の相関があることがわかります。日銀券発行高+日銀当座預金残高をマネタリーベースといいます。学説の一つに、インフレは、マネーストックやマネタリーベースなど通貨供給量で決まるというものです。
一般に中央銀行は、低インフレと金融システムの秩序維持の2つを目的として金融政策を実行します。米国では、低インフレと金融システムの秩序維持に加えて、低失業率も目的となっています。欧州では、低インフレと金融システムの秩序維持に加えて、安定成長(名目GDP成長率)も目的としようとの動きがあります。一方、日本では、低インフレと金融システムの秩序維持が従来より目標となっていますが、デフレ経済が長期化するにつれ、デフレから脱却して低インフレ化することが金融政策の目標となってきています。目標が一つの場合、政策は選択しやすいが、2つ以上の目標を追う場合は、政策の選択は容易ではなくなります。特に、低インフレと低失業率、低インフレと安定成長(名目GDP成長率)は、経済を刺激すべきか、反対に抑制すべきか判断に迷いやすいと言えます。
各国には中央銀行があります。銀行と中央銀行はどう違うのでしょうか。銀行は預金者からお金を受け取り企業に貸し出します。中央銀行は銀行からお金を預かり、また銀行に貸し出すこともあります。一番目の役割は、銀行を顧客とする銀行であることです。中央銀行には民間銀行の口座があり、銀行は規則で準備金として指定される一定額以上を中央銀行に預けます。準備金を引き上げれば、銀行が強制的に中央銀行に預けるお金が増え、逆に民間に出回るお金は少なくなります。二番目の役割は金融政策で、銀行間の短期金融市場に介入し、市場金利を一定に保つよう操作することです。中央銀行が目標金利を定め、それが維持されるよう市場に資金を提供したり吸収したりします。三番目の役割は、通貨を発行していることです。日本では、日本銀行券として紙幣を発行しています。発行は、金融機関から国債等の資産を日本銀行券で買い取ることで供給し、日本銀行の資産を銀行に売却することで資金を吸収します。この様に中央銀行は、市場金利や民間に出回るお金の量を操作します。それによって、通貨の価値の制御、物価の制御、景気の調整を行っているのです。
通貨は誰かに所有される状態にあります。その中には、使用目的もなく眠っている状態のものもあります。例えば、家計のタンス預金、投資に回らない企業貯蓄、貸し出しに回らない銀行預金などです。投資や消費に回るお金は他人の手に渡り、さらに投資や消費に回ります。貸し出しは、その借り手には使用目的があるはずですから、投資や消費に回ります。通貨供給量の計算では、眠っているお金も含めて計算されるため、通貨供給量とGDP、インフレとの関係は正確に分析できません。世の中に出回るお金を増やしても、それが単に貯蓄されるだけでは生産量の増大にはなりません。お金の絶対量よりも流通量が重要となります。お金は消費や投資に使われる必要があります。それには、企業にとって投資による収益期待を持てることが必要です。モノやサービスとは異なり、お金は返済してもらうことが前提となっています。リスクについて考慮する必要があります。需要も供給も、金利だけでなくリスクによって動き、特にリスクが高いときは、金利を下げても供給は増えません。収益期待が資金需要を喚起し、リスクの低下が資金供給を喚起します。
財政政策と金融政策は、経済の過熱や停滞を緩和させる有効な手段とみられてきました。しかし財政政策は、経済をそれほどは刺激しないのに財政悪化を招く例が多くみられるようになりました。財政政策ではなく金融政策を経済政策の中心とすべきだとの声が強くなり、金融政策への期待が高まりました。しかし金融政策も、金利引き上げで経済過熱を抑えることには有効でも、金利引き下げによる経済刺激には効果が薄いと言われるようになりました。金利もある程度(ゼロ近辺)まで下げると、それ以上は下げられず、政策手だてがなくなる事態となりました。その次の段階で行われる量的緩和も、インフレ懸念や実態経済への効果は未知数となっています。財政政策と金融政策は経済学が分析してきた効果が実際には得られず、財政赤字やインフレ、急激な景気後退など副作用が問題視されるようになってきています。経済学では、財政健全化と財政政策の両立、インフレにならず経済を刺激する金融緩和、経済停滞を招かない金融引き締め手法の開発が求められています。
経済政策では、ある経済指標をターゲットとして、それを望ましい方向や水準に持っていくべく、政府が制御可能な手段を使い間接的にターゲットとなる経済指標をコントロールします。ターゲットとする経済指標は、経済効果の伝搬によって最終的に到達するものである場合と、すぐに効果が観測できる経済指標の両方があります。前者は、時間がかかっても達成したい究極的な目標、後者は、効果をすぐに確認したい短期の目標となることが多いです。経済指標の伝搬効果の例としては、以下のものが挙げられます。
様々な政策がある中で何を選択すべきか、チェックポイントを以下に列挙します。なお、複数の政策を同時に、また、時間順序をずらして実施すると相乗効果が期待できます。政策はバラバラに実施するのではなく、政策のベストミックスを考えます。
政策の原資は有限であると考えられる。一般的には、不景気時に政策を実施し、その結果、好景気になれば、政策を終了する、資金を回収するのが良い。実際は、政策を打ち切るとそのタイミングで、景気後退に逆戻りする懸念があり、なかなか終了できない。不景気になったときには、原資が残っていないこととなる。 経済政策は、その効果が確認されるのに時間差が発生する。その理由としては、①効果の確認は、一定期間の経済統計の取得と分析が必要であること、②経済政策の刺激は、実態経済へ浸透するのに時間を要すること、③経済活動を規定する指標には、連動して効果が伝搬するものがあり、効果の伝搬に時間がかかること、などである。
日本経済全体を底上げするため、経済成長をもたらす3つの成長要素に対して拡大させるよう政策が実行されます。
労働投入を増やせば、生産量を上げることができます。投入された労働には賃金が支払われるので、家計収入が増え、消費や貯蓄が増加し、それが更なる生産や投資に繋がります。少子高齢化が進む日本では、労働投入は減少し、生産量にマイナスに作用しているのが現状です。高齢者の数は増えているので、高齢者の労働参加を進めることで労働投入を増やすことができます。また、他の先進国と比べて女性の労働参加率が低いとされ、女性の労働参加を進めることでも労働投入を増やすことができます。このため、高齢者雇用を促進する政策、女性の雇用促進のための政策(子育て支援等)が実施されます。
生産要素である資本を増やせば、生産量を上げることができます。資本の量(資本ストック)の増加は、設備投資や公共投資で行われます。投資には、資本ストックを増やす新規投資と資本摩耗を補うための更新投資がありますが、更新投資は資本ストックを増やしません。ただ、古い設備を廃棄し新しい設備に置き換えた場合は、資本の質が向上しているので、生産量にはプラスに働きます。高度成長期には、新規設備投資や公共投資が経済成長を牽引しました。近年、設備投資が低調な時代が続き、日本経済も低迷が続いています。経済を成長させるには資本ストックの増大が必要です。資本ストックを増やさない更新投資(設備やインフラの維持・改修)ではなく、新規設備投資や経済波及効果の大きい新規公共投資が必要となります。このため、新規投資を促進する政策が実施されます。
建物や機械設備など資本の量が同じでも、古い設備より最新鋭の設備の方が、より付加価値の高い製品をより多く生産できます。より効率的に生産できれば生産量が増加し、経済成長に寄与します。より効率的な生産は、新規設備投資の増大や研究開発による技術革新で達成されます。同様に、労働投入量が同じでも、高度な技能を持った労働者ならば、より付加価値の高い製品をより多く生産できます。高度な技能は、継続的な教育・訓練の結果得られるもので、生産を生み出す人的資本とも呼ばれます。長期的な教育訓練の充実で労働者の技能蓄積を図れば、経済成長に寄与できます。このため、研究開発の促進、最新設備の導入促進、教育訓練の充実を図る政策が実施されます。
予算の使い道の調整も経済政策の一部です。将来の経済への波及効果の強く期待できる産業に重点的に予算を配分することは産業政策となります。不景気時には、雇用の悪化を防ぐ目的で、雇用吸収力の高い産業へ重点配分すること等、全体額の調整だけでなく、配分の中身でも経済を制御できるのです。産業政策の視点で、先端技術開発への投資、中小零細企業支援策が行われます。資金支援では、振興させたい産業への出資、融資、補助金、減税などが実施されます。振興させたい産業は、まだ市場規模が小さい場合が多いため、民間単独では大規模な投資が進みません。また一定規模以上の生産量に達しないと規模の経済効果で価格が安くならず、市場の拡大・普及が進みません。企業の資金負担を軽減し、研究開発の促進、企業成長、市場成長を狙います。
政府の規制の緩和又は強化によって、民間の経済活動を刺激又は抑制させることで、経済の状態を望ましい方向に制御したり、自由な経済取引で経済を効率化させ、経済成長を促します。個々の産業について規制制度改革を行い、民間の新規事業の創出、企業間競争の促進を通じて技術革新、生産性の向上、市場規模の拡大を図ります。